研究課題
複雑骨格天然物の生合成反応機構の解明と物質生産を目的とする。具体的には、最近申請者の研究室でその生合成遺伝子クラスターの取得に成功した、(放線菌が生産する強力なタンパクリン酸化酵素(PKC)活性化作用を示す発癌プロモーターのテレオシジンB、難培養性海綿共生菌が生産する強力なタンパク脱リン酸化酵素阻害剤であるカリクリンA、および、その他複雑骨格天然物をとりあげ、その生合成マシナリーの解明と物質生産系の構築をめざす。生合成の鍵となる段階を触媒する酵素については、X線結晶構造解析により、酵素反応の立体構造基盤を明らかにするとともに、結晶構造に基づく酵素触媒機能の拡張と最適化をめざす。また、これら遺伝子を異種発現系に再構成することにより、構造多様性の拡大と物質生産系の構築を実現する。28年度は、医薬品として重要な複雑骨格天然物である ポリケタイドの合成酵素にも着手した。細菌のゲノム中より見出した巨大なポリケタイド合成酵素の異種発現により、既知のポリケタイドと似ているものの異なる構造を持つ新しいポリケタイドが生合成されることを発見した。そこで、自然界がどのように構造の違いを作り分けているかを、遺伝子を解析することにより調べた結果、構造の違いは遺伝子が組み変わることに起因していることを明らかにした。さらに、遺伝子中で組み換えが起きる領域や組み換えの規則についても部分的に解明することに成功した。ポリケタイド合成酵素は組み立てラインのような構造を取り、遺伝子の配列と得られる化合物の構造が対応するがことが特徴であり、今回の成果は組み立てラインのモジュールを自由自在に並べ変え、多様なポリケタイド化合物を作り出すことへの応用が期待される。これ以外にも、メロテルペノイドやセスタテルペンなど、各種複雑骨格天然物の生合成マシナリーの詳細や酵素反応機構の立体構造基盤の解明にも成功した。
2: おおむね順調に進展している
計画通りに順調に研究成果もでている。論文公表も進んでいる。
本年度が最終年度、研究のとりまとめを行う。昨年に引き続き、テレオシジンBについては、非リボソーム型ペプチド合成酵素 TleAとP450酸化酵素TleBの構造機能解析を行う。L-tryptophanとL-valineから、9員環インドラクタムを構築する非リボソーム型ペプチド合成酵素TleAと、ペプチド鎖の酸化的環化を触媒する新奇なP450酸化酵素TleBについても同様に、大腸菌に異種発現した組み替え精製酵素を用いて、in vitro精密機能解析とX線結晶構造解析に着手する。シアノバクテリアLyngbya majusculaにおいてlyngbyatoxinの生合成に関わるホモログ酵素LtxA (NRPS) とLtxB (P450) については、既に大腸菌に異種発現した組み替え酵素のin vitro解析が報告されている。これを参考に、TleA (NRPS) についても、PCP-Rドメイン組み替え酵素などを構築して精密機能解析と結晶化を試みる。一方、酸化的環化によるインドール環のC-4位への環化反応を触媒するTleBについては、N-Me-L-Val-L-Trp-olのアナログ体なども基質として作用させ、基質および生成物特異性を精査する。両酵素とも、同様に、結晶構造に基づく改変型酵素を作出し、酵素触媒機能の拡張と最適化をはかる。その他、複雑骨格天然物生合成マシナリーについても、精密機能解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 謝辞記載あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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