研究課題/領域番号 |
15H01841
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
成松 久 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 創薬基盤研究部門, 招聘研究員 (40129581)
|
研究分担者 |
梶 裕之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 創薬基盤研究部門, 研究グループ長 (80214302)
佐藤 隆 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 創薬基盤研究部門, 主任研究員 (90371046)
栂谷内 晶 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 創薬基盤研究部門, 主任研究員 (60392635)
安形 清彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 創薬基盤研究部門, 招聘研究員 (00611138)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 糖鎖 / 糖転移酵素 / 糖タンパク質 / 糖ペプチド / 糖鎖機能 / グライコプロテオーム解析 / グライコーム解析 / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
本課題では、各糖転移酵素特異的な標的タンパク質の大規模同定を行うために、糖転移酵素遺伝子ノックアウト(KO)マウス群を用い、糖鎖キャリア分子(糖ペプチド)をレクチン捕集して、野生型とKOマウスとの比較グライコプロテオーム解析を行っている。まずは、Lewis x構造(Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc-R)を合成する、α1,3-フコース転移酵素9(Fut9)に着目し、KOマウスを用いた解析を行った。Fut9が発現している腎臓をサンプルとして使用し、野生型及びKOマウスからグライコプロテオーム解析によるルイスx糖鎖のキャリアタンパク質の網羅的な解析を行なった。同定には新規に開発されたグライコプロテオーム解析技術・ツールを使用した。解析の結果、24個のルイスxキャリアタンパク質(42個のルイスX糖鎖付加部位、317個の糖ペプチド)が同定され、腎臓で合成されるルイスx糖鎖のほとんどは、Fut9により合成されていることが確認された。また、現在はシアル酸を除去したサンプルを用いて解析しているが、この手法を様々な組織やサンプルに応用するためには、シアル酸を含めて解析が出来るようになることが求められるため、その解析条件の検討を進めているところである。 また、core3 O型糖鎖、LacdiNAc糖鎖、ポリラクトサミン糖鎖をキャリーする糖タンパク質を網羅的に同定し、その機能を解析するために、糖鎖キャリア糖タンパク質を効率的に捕集するための系(レクチンアフィニティーなどによる捕集の系)の構築を行い、野生型マウス細胞あるいは臓器、細胞株を用いて同定を行った。並行して次世代シークエンサーによる全トランスクリプトーム解析も行っており、グライコプロテオーム解析との融合により、糖鎖生合成系の破綻により起こりうる疾患の病態と分子メカニズムの解明に結びつけたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではグライコプロテオームを中心とした複合オミクスの解析により、ノックアウトマウス(疾患モデルマウス)や改変細胞を用いて糖鎖構造及び糖鎖遺伝子の機能解明を目指している。これまでに、基本解析技術・手順を確立し、標的キャリア糖タンパク質を効率良く捕集するためのレクチンの選定と、その捕集系の構築、最適条件を検討する作業を進めてきた。当該年度に新たに開発したグライコプロテオーム解析技術・ツール(Glyco-RIDGE法)を用いて、糖鎖キャリア分子を網羅的・ハイスループットに同定するための系の構築のモデルとして、まずは糖転移酵素Fut9について実証実験を進め、Fut9遺伝子の野生型及びKOマウスの腎臓におけるルイスx糖鎖のキャリアタンパク質(Fut9が標的とする糖タンパク質)の同定に成功した。また、その他の糖鎖特異的なキャリア糖タンパク質の捕集系の開発・同定も順調に進んでいる。糖鎖遺伝子の発現の異なる細胞で次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析も実施し、パスウェイ解析やグライコプロテオームの解析結果との統合も進めた。CRISPR/Cas9システムによる糖鎖遺伝子KO細胞の作製も進んでおり、グライコプロテオーム解析やトランスクリプトーム解析へと展開する予定である。以上のように当該年度の研究計画は順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
疾患モデルマウスの解析と並行して単純化した糖鎖改変細胞を構築して糖鎖機能の解析を行う。Glyco-RIDGE法を用いてキャリア分子と糖鎖構造の変化を同時に同定するなどグライコプロテオーム解析を進める。 ノックアウトマウス個体において観察された表現型や応答との関連を明らかにするために、グライコプロテオーム解析とトランスクリプトーム解析を基にKOによる特定の糖鎖構造の消失やネオエピトープの増加による生体内への影響を解析する。相互作用因子の探索、刺激等による応答の生化学的解析に使用する。解析結果は疾患モデルマウスへとフィードバックして疾患メカニズムの解析へと利用する。 観察された表現型や応答との関連を解明するため、同定されたキャリアタンパク質の糖鎖構造と発現量の解析結果をもとに、生物機能に関連する糖鎖キャリアタンパク質について、データベース・ソフトウェアなどの分子ネットワーク情報を利用して絞り込む。また、本課題の網羅的なグライコプロテオミクス解析により得られた標的糖タンパク質分子のデータ(糖ペプチド配列、糖鎖付加位置)については論文などによる公開のほか、将来的にはデータベース化なども進め、広く公開することで次世代の糖鎖研究の基盤としたいと考えている。
|