研究課題
1.二個体相互作用の神経ネットワークモデル:定量的行動計測システムを用いて二者対面相互作用を計測し、Akaike causalityを適用することにより、見つめ合う二者の間で微小な体動が時間遅れなしに同期すること、それが両者の同時性相互作用によるものであることを明らかにした。2.相互主体性を介した共有プロセスの解明:共同注意課題の前後で、アイコンタクト状態の2個体の神経同期を計測し、その同期状態の変化を解析することにより、共同注意の経験が、2個体間神経ネットワークの結合度の変化として2者特異的に記憶されることを証明した。3.強化学習システムとしての対面コミュニケーションの神経基盤解明:他者との相互作用そのものが報酬となりうることを、仮想的ボールトスゲームを行っている最中の神経活動をfMRIで計測することにより明らかにした。4.簡易計測による発達諸相および疾患におけるネットワーク評価:①社会能力の様々な側面を国際的に比較可能な形で定量できる「かかわり指標」を用い、子どもの発達軌跡分析を行い、指標の安定性と適用年齢を確認した。②ステップ健診受診児群(1歳6ヶ月児健診で発達障害疑いと判断された2歳幼児)107名と一般集団群68名を登録した。③自閉スペクトラム症(ASD)者の自己意識(自分が他者からどのように評価されているのかについての意識)の神経基盤を明らかにした。健常者では、他者が見ている場合に、他者の心を推し量るのに重要な脳部位(内側前頭前野)と、情動に関わる脳部位(前部帯状回・島)との連携が高まり、自分の顔を見たときに感じる恥ずかしさが高まることが確認された。それに対して、ASD者ではこうした一連の他者の視線による影響が見られないことが明らかとなった。④安静時fMRIを用いて、精神疾患と健常者を高い精度で判別する手法を開発し、統合失調症群と健常対照群に適用した。
2: おおむね順調に進展している
「自他相同性に始まり向社会行動に至る社会能力の発達は、相互主体性を介した共有による学習過程である」との仮説を証明することを目的とする観点から、着実に実験が進行しており、業績も着実に公刊されている。1. 二個体相互作用の神経ネットワークモデルについては、2個体同時計測MRI/EEGシステム用の課題を確立しつつ有り、同時計測に伴う電気的雑音低減を含む技術的検討が完了していることから、本年度は計測に進む。解析手法として、2個体間のネットワーク評価方法としてのEigenvector centrality mappingを確立しつつあり、これを実際のデータに適用する。7テスラMRIへのマルチバンド法導入は完了しており、実際に同一被験者からの行動パラメータ、電気生理(脳波)ネットワーク、並びに解剖学的ネットワーク(7TMR)データを同一被験者から取得することを開始する。2.相互主体性を介した共有プロセスの解明に関して、アイコンタクトの即時性に関する神経基盤を明らかにする実験が複数進行中であり、成果が期待できる。3.強化学習システムとしての対面コミュニケーションの神経基盤解明については、他者との相互作用における自己効力感の効果を検証する実験が進行中であり解析を急ぐ。4.簡易計測による発達諸相および疾患におけるネットワーク評価は、特に3.と関連して、ASD者を対象としたfMRI実験を積極的に展開する予定である。
脳機能計測は順調にデータを積み重ねており、業績も着実に公刊されている。この成果を、疾患診断ならびに行動発達計測へと結びつける方策を要する。精神疾患の病態生理についてのモデルについて、精神科領域(小坂・飯高)ならびに認知発達科学領域(板倉・小枝)の専門家と密接に議論を積み重ねて、神経基盤の明確な定量的行動指標の確立へと展開したい。特に視線計測が有望であると考えられ、社会能力の様々な側面との関係性を明らかにする方向(安梅)で研究を進める。
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すべて 雑誌論文 (31件) (うち国際共著 9件、 査読あり 25件、 謝辞記載あり 19件、 オープンアクセス 21件) 学会発表 (34件) (うち国際学会 8件、 招待講演 9件) 図書 (3件) 備考 (1件)
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