研究課題
1.二個体相互作用の神経ネットワークモデルと相互主体性を介した共有プロセスの解明 注意の共有プロセスとしての共同注意の神経基盤を明らかにするために、視線を手がかりとした共同注意と、言語を手がかりとした共同注意の比較を行うとともに、空間的注意を伴わない特徴次元へ注意を向ける共同注意課題を新たに作成し、空間的注意による共同注意の神経基盤との異同を検討した。2.社会能力の神経基盤解明 皮肉は、話し手が発話した文字通りの意味とは反対の意味を聞き手に伝える話法である。聞き手が皮肉に気づくきっかけは、発話の内容と論理的にかみ合わない文脈や口調などを脳が感知することによる。口調は発話の内容を変調するという仮説を立て、機能的核磁気共鳴装置を用いて調べたところ、左下前頭前野が重要な役割を担っている可能性が示唆された。3.強化学習システムとしての対面コミュニケーションの神経基盤解明 他者との相互作用そのものが報酬となりうることを、仮想的ボールトスゲームを行っている最中の神経活動をfMRIで計測することにより明らかにするともに、随伴性に伴う自己効力感も重要であることを示す実験を行った。4.簡易計測による発達諸相および疾患におけるネットワーク評価 向社会行動の起源を探るために乳幼児における向社会行動の理解と実践を計測するための課題を作成して、実際の計測に入った。社会能力の様々な側面を国際的に比較可能な形で定量できる「かかわり指標」を用い、子どもの発達軌跡分析を行い、経年変化評価が可能であることを確認した。更に高機能自閉症者の社会機能を測定する指標を開発し、その実効性を検討した。安静時fMRIと機械学習(サポート・ベクター・マシン)を用いて自閉スペクトラム症と健常発達の判別を行うことにより、前頭・側頭領域における半球間結合の障害が、ASDの病因の一つであると推論した。
2: おおむね順調に進展している
「自他相同性に始まり向社会行動に至る社会能力の発達は、相互主体性を介した共有による学習過程である」との仮説を証明することを目的とする観点から、着実に実験が進行している。1. 二個体相互作用の神経ネットワークモデルについては、共同作業課題を含む複数の機能的MRI実験が平行して走っている。2個体間のネットワーク評価方法としてのEigenvector centrality mappingについては、まず一個体レベルでの有用性を学習課題において検証しており、実際の2個体間評価へ適用する。7テスラMRIへのマルチバンド法導入は完了しており、機能的MRIへ進む準備が進みつつある。相互主体性を介した共有プロセスの解明に関して、アイコンタクトの即時性に関する神経基盤を明らかにする実験が複数進行中であり、成果が期待できる。2.社会能力の神経基盤についても複数の実験が進行している。3.強化学習システムとしての対面コミュニケーションの神経基盤解明については、他者との相互作用における自己効力感の効果を検証する実験が進行中であり解析を急ぐ。4.簡易計測による発達諸相および疾患におけるネットワーク評価は、特に3.と関連して、ASD者を対象としたfMRI実験を積極的に展開する予定である。
脳機能計測は順調にデータを積み重ねており、特に超高磁場MRI(7T)との連携を強めていく方向で推進する。データ解析に於いても2個体を1つのネットワークとして解析する手法の準備が進みつつあり、実験データ取得と解析の両輪で推進する。この成果を、疾患診断ならびに行動発達計測へと結びつける方策を要する。精神疾患の病態生理についてのモデルについて、精神科領域(小坂・飯高))ならびに認知発達科学領域(板倉・小枝)の専門家と密接に議論を積み重ねて、神経基盤の明確な定量的行動指標の確立へと展開したい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (31件) (うち国際共著 12件、 査読あり 31件、 オープンアクセス 26件、 謝辞記載あり 11件) 学会発表 (43件) (うち国際学会 23件、 招待講演 5件) 図書 (6件)
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