研究課題/領域番号 |
15H01888
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
周藤 芳幸 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (70252202)
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研究分担者 |
金山 弥平 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00192542)
長田 年弘 筑波大学, 芸術系, 教授 (10294472)
師尾 晶子 千葉商科大学, 商経学部, 教授 (10296329)
高橋 亮介 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (10708647)
佐藤 昇 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (50548667)
大林 京子 (山花京子) 東海大学, 文学部, 准教授 (50594157)
田中 創 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50647906)
藤井 崇 関西学院大学, 文学部, 准教授 (50708683)
芳賀 京子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (80421840)
中野 智章 中部大学, 国際関係学部, 教授 (90469627)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 比較史 / 知識 / 伝達 / メディア / 口承 / 文字 / 図像 |
研究実績の概要 |
共同研究の2年目にあたる2016年度には、古代地中海世界における「知の強化と増幅」に果たしたメディアの機能の解明を主軸に据えて、国内外で研究代表者と研究分担者による合同の研究会、国際研究集会、セミナー、海外の著名な研究者の招聘講演会などの開催、及び史資料の調査、公開を中心とする研究活動を行った。口承班、文字班、図像班の合同による定期的な研究会の取り組みとしては、6月3日に研究打ち合わせ会を行って当該年度の活動計画を確認した後、9月24日と25日に、渡英中の佐藤を除くメンバー全員が名古屋大学に集まって、各自の研究の進捗状況について報告し、2018年度に開催を計画している第4回日欧古代地中海世界コロキアムの開催に向けて討議を行った。国際研究集会については、研究分担者の藤井が中心となって活動している科研費のプロジェクト(16F16009)との共同で、11月12日に傭兵に関する国際研究集会を関西学院大学で開催した。そこでは、リヴァプール大学のクリストファー・タプリンやオークランド大学のマシュー・トランドル、それに研究代表者の周藤ら計8名の研究者が、古代ギリシア・ローマ世界における傭兵と市場の問題に関する研究報告と討議を行い、その過程でモビリティの高さを特徴とする傭兵を介した知の伝達の重要性が浮き彫りになるという成果が得られた。国外の著名な研究者による講演会の開催企画については、11月から12月にかけて、ウィーン大学のマリオン・マイヤー教授(ギリシア美術史)、2月にイオニア大学のヴァイオス・ヴァイオプロス准教授(ラテン文学)のそれぞれの講演会を行い、とりわけ本プロジェクトと共通する問題関心のもとで伝統的な美術史研究の枠を超えた独自の研究を推進してきたマイヤー教授との学術交流からは、大きな示唆を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上で述べた研究業績の概要、ならびに個別の研究業績からも明らかなように、本年度も研究代表者のイニシアティヴのもとで、古代地中海世界における知の伝達の特性を解明するための試みは順調に進められた。とりわけ、昨年度からの研究会や講演会などの企画の積み上げを通じて、研究代表者と研究分担者相互の間で取り組むべき問題の所在に対する共通認識が深められたことは、大きな進展といえる。初年度には、ベルリン大学のヨヘム・カール教授を中心とする共同研究グループ「流動する学知」との研究交流を通じて、本プロジェクトが国際的にも意義のあるものであることを確認したところであるが、本年度も、とりわけウィーン大学のマリオン・マイヤー教授を通じて、オーストリアでも多くの研究者が図像と言語の関係に深い関心を抱いていること、また同大学の古典考古学科が、学科としての組織的重点研究領域として「視覚の文化史:文化と視覚のメディア」を推進していることなどを知り、本プロジェクトの方向性の正しさを国際的な視座から確認できたことは、共同研究をさらに進める上で大きな励みとなった。これは、研究分担者の藤井が中心となって開催した傭兵と市場についての国際研究集会の場でも同様であり、本プロジェクトの趣旨説明を受けた海外の共同研究者が、一様にその意義を評価してくれたことは特記しておきたい。個別研究については、芳賀が中央公論新社から共著『西洋美術の歴史1 古代』を刊行したことを筆頭に、とりわけ田中が書簡と伝承の問題について、また金山が記憶の問題について、「知の伝達」の視点から考察を深めるなど、それぞれの研究は確実に深化している。さらに、昨年度には、国際学界へのわが国独自の貢献の一環として、貴重な一次史料をアーカイヴとして公刊する事業にも取り組んでおり、総じて共同研究のプロジェクトはおおむね順調に進展しているものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本共同研究プロジェクトの大きな目標の一つは、平成30年9月に欧米から古代地中海世界研究の最先端で活躍している第4回古代地中海世界日欧コロキアムの開催であるが、その国内向けの予備作業として、5月21日に一橋大学で開催される日本西洋史学会第67回大会において、本プロジェクトのメンバーによる小シンポジウム「古代地中海世界における知の伝達の諸形態ー口承・文字・図像」を開催する。このシンポジウムでは、周藤による問題提起を受けて、口承班から佐藤、文字班から師尾、図像班から芳賀がそれぞれ報告を行い、金山、山花、田中によるコメントの後にフロアとも意見交換する予定である。なお、この成果については、別途、国内で単著として公刊する方向で準備を進めている。さらに、昨年度は佐藤がオックスフォードに滞在し、また年度末には桜井が渡英して研究と連絡調整を行ったが、今年度上半期は中野がオックスフォードに滞在するため、引き続きイギリスの研究者との連絡を密に進めていくことを計画している。また、当初の計画では、本年度は「知の継承とカノン化」を軸として共同研究を進めることとしており、その基本方針に変更はないが、昨年度の活動、とりわけ2月24日に開催されたヤン・アスマン(安川晴基訳)『エジプト人モーセ』藤原書店2016についての研究会を主たる契機として、記憶を介した知の伝達についても研究を進める必要が生じている。そのため、平成29年度は、これまでの活動を継続しながらも、記憶史の問題を射程に含めて、共同研究を発展させていく。
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