研究課題/領域番号 |
15H01893
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
海老澤 衷 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60194015)
|
研究分担者 |
佐々木 葉 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00220351)
飯沼 賢司 別府大学, 文学部, 教授 (20176051)
井上 聡 東京大学, 史料編纂所, 助教 (20302656)
出田 和久 京都産業大学, 文化学部, 教授 (40128335)
遠藤 基郎 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (40251475)
稲葉 伸道 名古屋大学, 人文学研究科, 名誉教授 (70135276)
高橋 敏子 東京大学, 史料編纂所, 教授 (80151520)
田島 公 東京大学, 史料編纂所, 教授 (80292796)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 頭首工 / 大垣八幡神社 / 勅施入 / 遮那院 / 大中臣氏 / 環境歴史学 / 開発御厨 / 役夫工米 |
研究実績の概要 |
カレントモデルである東大寺領大井荘(岐阜県大垣市)の共同研究を深化させるため、5月に大垣城下町の構造を現在に伝える大垣八幡神社の祭礼(ユネスコ無形文化財に登録)の調査を行った。また、初年度から連続する地名・灌漑・伝承などの調査も継続した。 これらを踏まえて、9月6日(水)には早稲田大学戸山キャンパス33号館3階の第1会議室にてシンポジウム「カレントモデルとしての美濃国大井荘研究」を開催した。報告は①赤松秀亮(早稲田大学大学院文学研究科博士課程、JSPS特別研究生)「東大寺領美濃国大井荘の「勅施入」と「開発領主」」、②遠藤基郎(東京大学史料編纂所教授)「東大寺領大井荘の史料論―鎌倉期から室町中期まで―」、③稲葉伸道(名古屋大学名誉教授)「大井莊研究の諸問題について」、④海老澤衷「荘園から城下町へ―変貌し、継承される防災・流通・文化―」で、終了後に討論が行われた。大井荘の共同研究はきわめて順調に進んでおり、今後一年間で成果を出版することが可能であろうとの結論に達した。 上記の結論から、大井莊研究に関しては研究成果のとりまとめに入り、2018年3月13日には研究分担者のみならず研究協力者に拡大して参加を要請し、合同編集委員会を開催することができた。出席を頂いたのは、木村茂光東京学芸大学名誉教授、三枝暁子東京大学准教授、下村周太郎東京学芸大学准教授などである。この委員会により、2018年6月には『中世荘園村落の環境歴史学―東大寺領美濃国大井荘の研究』として吉川弘文館から刊行する見通しとなった。 既存荘園村落情報全体では備中国新見荘の成果(科研番号22320134)を今回の科研の基盤とする「アークGIS」に載せることが可能となり、懸案であるデジタル化が前進することとなった。パイロットモデルとなる豊後国田染荘などについては、2018年度に現地で総括的なシンポジウムが開かれる予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由は、この共同研究において、もっとも独創的な展開を期待されている「カレント・モデルとしての大井莊研究」においていくつかの進展が見られたことにある。まず第一に、現代的な意義が問われていることがあげられる。これは20世紀末に起こった阪神淡路大震災、さらに直近の2011年に発生した東日本大震災により人類の生き残り自体が真剣に考えられるようになり、環境歴史学に新たな期待が寄せられることになったことがあげられる。これは主に理系の研究者からのものであり、実際に「千年村」構想が科研の共同研究にも見られるところである。大井荘の共同研究において、災害に強い大井荘の実相が明らかになり、輪中城下町への展開が見通せるようになったことがあげられる。 第二には、人文系的な問題として、特異な大井荘の荘園としての特性が明らかになってきたことがあげられる。京都大学名誉教授大山喬平氏が荘園制に関する新たな理論的展開、すなわち、地方行政単位としての「国―郡―郷―村」の持続性に注目した上で、「収取単位としての「荘―名」が割り込む形で荘園制が展開されるという仮説がこれである。大山喬平氏のこの理論は提起されて10年以上経過した今までにその実態を明らかにした研究はなかった。 ところが、大井荘の共同研究においてはこの大山氏の理論を裏付ける実態が明らかになってきたのである。大井荘は、『和名抄』に記された郷ではなく、もともとは奈良時代以前に王領となっていた開発予定地を含む王家の家産的な領有地の一つであり、それを聖武天皇の没後に国家安穏祈祷のために東大寺に施入したものであった。 今回の共同研究により、大井荘は理系の研究者が深く研究に関わる災害に強く、長期にわたって生活を営める場所であるということ、および大山喬平氏の提起された仮説を実体的に証明できる可能性が見えてきたこと、以上の二つがおおむね順調に進展している理由である。
|
今後の研究の推進方策 |
既存荘園村落情報をデジタル化することについては、現在その途上にある。2018年9月5日(水)には早稲田大学戸山キャンパス33号館第1会議室においてシンポジウム「荘園調査のデジタル化とweb公開」を行う予定である。ここでは、①デジタル情報による前近代歴史事実の解明、②近世村絵図から近代の字限図、空中写真図等のデジタル化による復原作業、③備中国新見荘(岡山県新見市)における小字境界図のデジタル化、④美濃国大井荘における水路図のデジタル作業、⑤開発領主と名主屋敷に関するデジタル化作業と中世的景観、⑥美濃国大井莊域における小字図の作成と城下町、⑦アークGISによる歴史研究の進展と課題、の6方向から今後の研究の方策を探る。 大垣市教育委員会で作製された字限図の接合図については、デジタル化し、これを小字修正図作成に活用した。これを「アークGIS」ソフト上に落とし、2018年刊行予定の研究成果『中世荘園村落の環境歴史学―東大寺領美濃国大井荘の研究―』では、単色で印刷することになった。PDFでWeb公開すれば、カラーにより字堺と水路などを区別することが可能となる。これでも、紙媒体の地図と比較すれば格段のシンポである。各レイヤーを取捨できる形で公開するとなると容量が大きくなり、地理情報システムを共有しなければならないという問題が生じる。 以上のような課題をどのように克服するかが問題となる。9月5日に行うシンポジウムでこの点の解決策を見出すことができるよう努力したい。PDFのみの公開であれば、おそらく早稲田大学の教員に割り当てられているHPで公開は可能であり、サーバーの新たな設置などの問題はないであろう。これまでの研究で最高レベルの地図情報ソフトを使っての記録作成に関する方法は一応完成の域に達したので、これらをワークステーションとして、研究者が共用するだけでもるだけでも、それなりに価値はある。
|