研究課題/領域番号 |
15H01898
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
篠原 琢 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20251564)
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研究分担者 |
鈴木 健太 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (00749062)
吉岡 潤 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (10349243)
青島 陽子 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (20451388)
林 佳世子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (30208615)
古谷 大輔 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (30335400)
小森 宏美 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50353454)
秋山 晋吾 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (50466421)
中澤 達哉 東海大学, 文学部, 准教授 (60350378)
小山 哲 京都大学, 文学研究科, 教授 (80215425)
池田 嘉郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (80449420)
前田 弘毅 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (90374701)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 境界地域 / 文化史 / 空間構成 / 中央ヨーロッパ / 東ヨーロッパ / ナショナリズム / 都市空間 |
研究実績の概要 |
2017年度は、研究実施計画通り、合計8つの国際会議・ワークショップを実現して、研究成果を確認することができた。以下、研究組織別に、その成果を振り返る。研究班A「近世の複層性における境界性の解明(16~18世紀)」では、宗教改革期における空間構成と他者認識の形成について、研究を推進した。1月には、中央ヨーロッパ大学よりマティアス・リードル教授を迎えて二つの国際ワークショップを開催し、宗教思想(終末論)が政治秩序論に与える影響について討議した。研究班B「境界の国民主義的再編制」(18世紀~1930年代)では、9月に「言語実践と国民文化」と題する会議を、3月にはリヴィウ・カトリック大学よりオスタプ・セレダ教授を招いて、「ガリツィアにおける『他者』の創造/想像」、および「ウクライナ・ナショナリズムの成立」という国際会議・ワークショップを催した。ここでは東欧におけるユダヤ・ナショナリズム(シオニズム、ユダヤ人ブント)の展開が、それを取り囲む他の国民主義的な思想・運動と同型の構造をもち、またそれらとの相互作用のなかで形成されたことが明らかにされた。B班の成果は、ルンド大学(スウェーデン)の学術集会でも発表された。B班はまた、2月にProtecting the Empire: Imperial Government and Russian Nationalist Allianceによって、国民形成と帝国統治との相互的関係を明らかにした。また、このテーマで、ポール・ワース教授(ネヴァダ大学)、ダリウス・スタリューナス氏(リトアニア歴史研究所)を招いて、ワークショップを行った。研究班C「現代史における破砕」(第二次世界大戦~社会主義期)は、7月に「第二次世界大戦の記憶:日本とヨーロッパの東部」と題するワークショップを開催し、本研究課題の研究成果を日本史研究に接合することを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り2017年度は、研究実施計画通り、海外から研究者を招聘し、討論を通じて、本研究計画の国際的位置を確認することができた。各研究班ごとにバランスよく研究を推進できた点は評価される。研究班A「近世の複層性における境界性の解明(16~18世紀)」では、宗教的歴史像・時間意識が政治秩序に作用する様態を、宗教改革期を軸に、中世後期から20世紀に至る長い射程のなかで研究を推進した。研究班B「境界の国民主義的再編制」(18世紀~1930年代)では、従来、ロシア・東欧史において別個に扱われていたユダヤ人史、特にそのナショナリズムの思想と運動とを、「東欧」という場に定位することができた点が大きく評価される。「ユダヤ人史」を東欧史・中央ヨーロッパ史のなかに有機的に組み込むことは、依然として大きな研究上の挑戦でありつづけるだろう。B班では、帝国統治と国民形成の相互作用というテーマをオーストリア帝国、ロシア帝国を軸に展開した。研究班C「現代史における破砕」(第二次世界大戦~社会主義期)では、東アジアにおける第二次大戦の記憶と本研究課題を本格的に結びつける作業を行なった。このテーマは、近年、多くの成果が挙げられている領域であり、本研究プロジェクトもそれに貢献することが期待できる。 当初計画では予定されていなかった、ルンド大学中・東欧研究所と協力関係を構築することができたのも大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、研究プロジェクトの最終年度に当たるため、二つの国際的プロジェクトを軸に研究の総括をはかる。第一は、H28年度に続いて、国際文化センター(クラクフ、ポーランド)との協力の下に行う国際移動セミナーである。H28年度は、シロンスク/シュレージエン/シロンスクを対象に、境界地域における宗派的、言語的、国制論的断裂の輻輳を調査し、論じたが、今年度はベーメン王国とハンガリー王国の境界にあたる「モラヴィア/スロヴァキア」を対象地域に選び、シロンスクとの比較をはかりつつ、他者が生成される「ゾーン」として境界地域を把握し、理論化することをめざす。移動セミナーの後、参加した各研究班のメンバーによる研究報告を行う。 第二は、H29年度に国際セミナーを行って準備を始めた「ガリツィア」に関する国際シンポジウムの開催である。「ガリツィア」という特定の場を対象として研究総括を行うのは、「ガリツィア」が境界地域としての性格をもっとも典型的に、かつ極端に帯びているからである。ガリツィアは、宗派的境界が錯綜し、異なる法原理や国家観念がせめぎ合い、20世紀には、諸国民社会の断裂と、暴力的な住民構成を変容を経験した。そうした経験が、現代において積極的に想起され、諸都市の空間に変化が観察される点で、ガリツィアにおいては境界地域の「集合的記憶」の問題を問うこともできよう。国際シンポジウムには、ポーランド、ウクライナ、オーストリア、アメリカ合衆国から研究者を招聘し、本研究プロジェクトの成果を問うこととする。オーストリア帝国の植民地的機制のなかで、ガリツィアがヨーロッパ史の「辺境」として想像/創造されたことも重要であり、オーストリア帝国史の再検討も行う。 年度末までに、各研究班は研究成果を報告し、成果の出版に向けた準備を行う。
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