研究課題/領域番号 |
15H01899
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高瀬 克範 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (00347254)
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研究分担者 |
手塚 薫 北海学園大学, 人文学部, 教授 (40222145)
江田 真毅 北海道大学, 総合博物館, 講師 (60452546)
増田 隆一 北海道大学, 理学研究院, 教授 (80192748)
内山 幸子 東海大学, 国際文化学部, 准教授 (20548739)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 千島アイヌ / 千島列島 / カムチャツカ半島 / オホーツク文化 / 続縄文文化 / 土器 / 動物骨 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトで2015・2016年にカムチャツカ・北千島から回収した木炭試料や,島嶼生物地理学的な比較研究に役立つシベリアの木炭・動物骨試料の放射性炭素年代測定,炭素・窒素の同位体分析を実施した。これにより,2015年に調査した遺跡の年代や,2016調査で発掘された貝塚群のなかに千島アイヌの時期の遺跡が含まれていることが特定できた。また,千島列島出土イヌの計測,出土哺乳類のDNA分析,ZooMSによる分析を実施した。DNA分析は複数回試みたものの,試料の保存状況が悪く成果を得ることができなかった。しかし,ZooMSによる同試料の分析は成功し,この分析方法の有効性を確認することができた。このほか,千島列島,カムチャツカ半島出土の動物骨の情報は集計・分析段階に入っており,カムチャツカ出土資料については論文化に着手している。 本研究によってこれまで得られた成果の一部を,国際研究集会,一般向けの講演会,学会のプロシーディングスなどで公表している。本研究では,生物地理学的に島嶼部と対照的な環境にある大陸部の資源利用との比較も本研究の射程に入っているが,典型的な大陸環境における文化変遷と資源利用を理解するためにロシア・サハ共和国の研究者を招聘し,国際ワークショップを東京大学(2019年3月21日)・北海道大学(2019年3月26日)で実施した。 ロシア・マガダンに保管されているカムチャツカ出土の考古資料のうち,土器・石器・骨角器・ガラス製品などの人工遺物に関しては,共同研究者とともに資料カタログを作成・刊行した。これにより,他の研究者にとっても本コレクションを利用しやすい環境を整えることができた。なお,本コレクション中の動物骨については,別途論文化を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
千島アイヌの起源問題に関わるイヌのDNA分析や内耳土器の情報収集はほぼ終了している。経済変化についても,千島列島およびカムチャツカ半島から出土した動物遺体の基礎的な情報収集は終了しており,論文としてまとめる段階に入っている。予定通り行かなかった点として,2016年度に北千島で発掘した動物遺体のロシアからアメリカへの輸出を2018年度に試みたが,輸出時にロシア税関によって携行荷物の検査が行われなかったために資料の移動ができなかった。ロシア・アメリカにおける関係機関の協力により,資料輸出・輸入の法的な許可はすべて取得済であるので,次年度に再度試みる予定である。資料輸出の遅れにより,2016年度の発掘資料については分析結果を部分的にしか研究期間中の研究成果に反映できないこととなるが,高度な研究・分析がしやすい環境下に保管されることとなるため将来的な資料の活用につなげたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2016年に北千島で発掘調査した木炭試料をふくめ,島嶼生物地理学的な比較研究などに役立つ木炭・動物骨試料について,追加で放射性炭素年代測定,炭素・窒素同位体分析を実施する。このほか,最終年度であるためこれまでの分析結果を発信する作業に力点を置き,内耳土器からみた千島アイヌの起源問題にかかわる最新の見解をまとめる。この点に関連して,投稿予定であった紀要の刊行が一時中止になったため遅れているイヌのDNA分析結果の公表も試みる。 動物骨については,これまでの調査で15-17世紀と18世紀以降で時期を分けて検討できる資料は非常に乏しいことが判明してきているため,時間・空間のスケールをもう少し大きく設定しなおしたうえで論文作成にとりかかる予定である。こうした方針においてもなお,カムチャツカ半島と北千島における動物利用の違いにアプローチすることは可能であり,カムチャツカからの「撤退」が千島アイヌの経済にどのような影響を及ぼしたのかを間接的に検討することは可能と考えられる。
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