研究課題
2015年度は、①決済システムをめぐる病理現象である「サクラ」サイト詐欺商法における決済代行者問題の分析を通じて、消費者取引に関連するリテール決済に関連して、消費者被害がどのように発生しているのかを解明すること、②クレジットカード決済を素材として、リテール決済サービス市場を規律するための「分析枠組」を検討することを中心に研究を実施した。2015年度は、上記①については、消費者苦情・相談情報を集約・分析しておられる国民生活センター相談情報部相談第2課、上記②については、長年金融政策を担当されてきた行政官、リテール決済関連のコンサルタントおよび研究者に講師を務めていただき、決済システムの産業構造およびICTの発展とともに電子決済について新しい決済ネットワークが開発されている現状とその問題点について、新たな知見を得た。上記の研究活動を通じて、上記①については、研究代表を務める千葉恵美子が「キャッシュレス決済の拡大と今後の消費者法制の在り方」について、現時点の問題状況を分析し、その成果を公表した。また、上記②については、病理的現象にとらわれ利用者を保護するというパターナリスティックな考え方を取るのではなくて、リテール決済の取引に関与した主体にどのような権利があり、どのような責任があるのかを学際的に検討を加えた上で、さらに消費者取引であることで特別な規律を考える必要があるかを検討することにした。以上の視点から、決済の対象となる代金債務を発生させる商品・役務の供給契約・決済のための契約構造・決済ネットワークの3つの構成要素にわけた上で、これらを全体として正常に機能させるための法律構成をさらに考察することにした。今後の学際的研究を推進するために「リテール決済研究会」を組織し、継続的に研究会を開催することにし、本年度は4回研究会を開催した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、クレジットカード決済・電子マネー決済など消費者取引に直結したリテール決済システムを法的に分析し、これまで消費者法と決済法に分断されて検討されてきた法制度を横断的・包括的に規律するための立法政策のあり方、および、電子取引である点をどのように立法政策に取り込むか検討することを目的としている。クレジットカード・電子マネー・仮想通貨などの決済サービスは、キャッシュレス決済を実現するための次世代型の社会インフラであり、金融とICTが融合したフィンテック領域における問題の一つである。このため、研究を推進するにあたって、リテール決済として広く利用されている口座振替、証券決済についても取り上げ、他方で、消費者取引によく利用されているクレジットカード決済、電子マネー決済、収納代行との比較をし、さらに、これからの新しい決済システムとして仮想通貨による決済も取り上げることにした。現在、仮想通貨に使われているブロックチェーン技術を取り入れた仕組みについて実証実験がさかんに行われていることから、今後の研究の推進にあたって研究対象に含めることにした。上記研究対象の拡大に伴い、連携研究者として10名の方に本研究に参加していただくことにした。
1.比較法研究を行う。 英米法・EU法・ドイツ国内法・フランス国内法について、決済システムの市場構造を需要側の市場構造と供給側の市場構造の二つの観点から法的な分析を加え、各国の決済システムの現状と法制度を把握するとともに、制度改革の方向として、どのようなバリエーションがあるかについて検討する。2.理論的に検討を加える。 決済システムの利害関係者間は契約・約款によって結びつけられているが、契約の相対効によって契約の効力は切断されること、すべての取引条件について決済システムの利害関係者が交渉を行うことはできないことから、全体を決済「ネットワーク」として捉え、多様な契約主体の利害を調整する理論枠組を検討する。また、決済システムの安定性・予測可能性の見地からは、社会インフラとしての公益性があること、電子決済であることを考慮して、これらの点が上記理論枠組にどのような影響があるのかを解明する。3.立法政策の在り方について検討する。 日本の決済市場の特色を考慮した上で、決済サービスの市場において決済ネットワークとして完結している点と消費者取引の決済手段として安定的で健全な決済システムである点を同時に達成する「公法・私法協働モデル」を提示する。併せて、クレジットカード決済については、国際ブランドの登場によって、電子商取引の決済手段としてクロスボーダー取引に利用されることから、消費者法と決済法が融合した法規制について国際私法の観点からも検討する。
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