研究課題/領域番号 |
15H01945
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
阿部 修人 一橋大学, 経済研究所, 教授 (30323893)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 消費者物価指数 / スキャナーデータ / インフレ期待 / 購買行動 / 家計内在庫 |
研究実績の概要 |
2015年度は、(1)家計別スキャナーデータを用いた家計別物価水準と消費税率改定に関する分析、(2)大規模店舗別スキャナーデータを用いた物価と景気循環の分析、(3)人々の将来インフレ期待の形成メカニズムの解明、(4)家計の消費在庫蓄積行動の分析、の四点の分析を主に行なった。そのうち、(1)は「消費税率改定時の家計購買行動」『経済研究』vo.66. No.4として出版された。(2)、(3)に関してもDiscussion Paperとしてその結果を公表している。 (1)は消費税率が改定された2014年4月前後で、家計が購入する商品価格がどの程度家計間で異なるかを家計・商品カテゴリー・購入店舗別購買履歴データを用い推計し、高所得層は低所得層よりも高い物価上昇率に直面しているという結果を得た。これは、税率改定の際、低所得者がより安い商品に需要をシフトさせることで生活防衛を図っていることを示唆している。商品の「質」の問題を度外視するならば、この結果は公式CPIで家計間の厚生比較をする際、低所得者の厚生悪化を過大評価する可能性があることを意味している。(2)の大規模POSデータを用いた研究は、通常、マクロ変数のみから推計されるインフレギャップ(GDPギャップ)をミクロの商品取引情報から構築することを試みている。具体的には、取引価格及び数量のシフトを需要ショックと供給ショックに分解し、それらを日本全体で集計することで、マクロの総需要・総供給ショックの推計を試みている。その結果、近年の物価上昇の一部は、負の供給ショック、すなわち、供給曲線の内側へのシフトが原因であるという結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度は家計別スキャナーデータを用いた家計の購買行動及び家計別物価指数の計測に重点をおいて分析し、2016年度以降に計画している消費者物価や家計調査等の政府個票データの申請の際に必要とされる基礎的情報、特に所得・年齢階層別の商品価格の収集を行った。また、大規模POSデータを用いた分析は当初の計画よりも広がりをみせ、単に物価の分析のみならず、景気循環の背後にある総需要・総供給ショックの推計まで拡大している。これは、物価研究を行っていく際に、物価変動の背景にあるメカニズムの解明につながるものであると同時に、リーマンショック直前から直近までの日本経済における総需要と総供給の動向に関し重要な含意を有するものである。さらに、本研究において行った推計上の工夫は、従来、時間を通じて一定と仮定されていた商品間代替の弾力性を毎週異なる値をとるものを許容するものであり、大きな進展であると考えている。また、2015年度には家計の物価観、特に現在および将来のインフレ率に関する認識が家計間でどのように異なるかを1万人以上の家計を対象に調査を行った。この調査は多くの内容をカバーしており、2015年度は、特に将来インフレ期待の改定メカニズムを重点的に分析した。現在のインフレ率に関する認識の異質性に関する分析は2016年度以降に行う予定である。家計在庫行動の分析に関しては、少数の商品に限定し、定期的に家計に在庫量を確認してもらい、かつ購買履歴を残してもらうアンケート調査を行った。この調査は前述のインフレ期待調査に比べて小規模であり、2016年度以降の大規模調査のパイロットサーベイであり、この結果を精査し、次回のアンケート調査設計時に活用する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は、2015年度の分析結果に基づき、特に以下の研究を進める予定である。(1)総務省『家計調査』を用いた家計の物価および消費行動の分析を行う。その際、家計別スキャナーデータとの接続も視野にいれ、推計モデルを構築する。(2)2015年度に行った家計内在庫に関するパイロットサーベイに基づき、それをさらに対象品目、調査期間、調査対象者数を拡大した本サーベイを行い、家計内在庫蓄積行動及び購買行動を分析する。家計内在庫蓄積を考慮することにより、考慮しない場合よりも商品間代替の弾力性が低くなるという先行研究の結果が、実際に家計内在庫水準情報を用いることによりどの程度変化するかを特に分析する。(3)大規模店舗別スキャナーデータを用いた物価および総需要・総供給ショックの分析を進める。特に、商品間代替の需要弾力性、供給弾力性がどの程度時系列で変化するか、商品別にどの程度異なるかを分析すると共に、地域間で総需要・総供給ショックが異なるかなど、多面的に分析を行う。(4)物価に関する内外の専門家による国際コンファレンスを開催し、その時点までの研究成果の報告をすると同時に、2017年度以降の研究の方向性について議論する。(5)家計の物価認識の異質性に関するサーベイ調査結果を用い、将来インフレ期待の異質性との関係、および家計間異質性と所得や年齢などの家計属性との関係を分析する。
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