研究実績の概要 |
本研究の目的は,「健康の社会的決定要因」(WHO)に着目し,日本におけるwell-being(幸福・健康)の社会経済的な格差の実態報告に留まらず,①要介護状態をはじめとするwell-beingが損なわれた(以下well-being喪失)状態を招くリスク要因,②well-being喪失に至る「原因の原因(cause of cause)」,③ソーシャル・キャピタル(人々とのつながり)など地域レベル要因とwell-beingとの関連から格差の緩和要因などを実証的に明らかにすることである. 2015(平成27)年度には2010-11年と2013年調査に協力を得られた約30市町村の約14万人の高齢者を追跡する大規模コホート研究と共に,2回の調査に回答した約6万人を対象に3回目のパネル調査を2016年に行う準備を進めた.1)協力市町村の確保,2)大規模調査実施経費の確保,3)調査票の設計,4)研究協力者の確保などである. 既存データの分析による仮説の検証も進めた.その結果を市町村にフィードバックしたほか,.①要介護状態をはじめとするwell-being喪失状態を招くリスク要因としては,高齢者における心理的虐待発生の特性,小児期の貧困経験が高齢期の認知症発症に与える影響などについて報告し②well-being喪失に至る「原因の原因(cause of cause)」では,スポーツグループに参加している者で転倒発生は少ないのか,都市類型別にみた高齢者の教育歴と閉じこもりとの関連についての検討などを行った.③ソーシャル・キャピタル(人々ののつながり)など地域レベル要因とwell-beingとの関連から格差の緩和要因では,認知症になりにくい地域特性に関する研究や物忘れとソーシャル・キャピタル関連指標との相関分析などを行った.
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今後の研究の推進方策 |
「健康の社会的決定要因」(WHO)に着目し,上述の本研究の3つの目的に沿って2016年度に行う大規模な調査データを活用して実証的に明らかにする.1)他の研究者の研究費で得た他の市町村における調査データなどと結合して,10万人超規模の大規模調査データを構築する.2016年までのwell-being喪失(死亡,要介護状態・認知機能低下による生活障害発症)に関するエンドポイントデータを得て既存データと結合することで,コホートデータを構築する.すでに2010と2013年の2回の調査に協力してくれている市町村で,2016年調査にも協力が得られる市町村の,同じ対象者の3時点の調査データを結合することで,パネルデータを構築する.2)これらの3種類のデータ(横断調査データ,コホートデータ,パネルデータ)を活用して,横断分析・縦断分析を進める.①要介護状態をはじめとするwell-being喪失状態を招くリスク要因については,横断分析で仮説の吟味を行い,コホート研究で逆の因果関係を排除しても関連が残るのかを検証することで,因果関係に迫る.②well-being喪失に至る「原因の原因(cause of cause)」については,パネルデータの解析を進め,コホート研究で,well-being(幸福・健康)喪失のリスクと判明したリスクなどをエンドポイントして,そのさらに上流にあるリスクなど(cause of cause)を明らかにする.③ソーシャル・キャピタル(人々ののつながり)など地域レベル要因とwell-beingとの関連から格差の緩和要因については,異なる社会環境を持つ多数の市町村あるいは,小学校区などの小地域間比較分析を進めソーシャル・キャピタルなど地域環境要因の影響について解明していく.
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