研究課題/領域番号 |
15H01972
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
近藤 克則 千葉大学, 予防医学センター, 教授 (20298558)
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研究分担者 |
村田 千代栄 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, その他部局等, その他 (40402250)
斉藤 雅茂 日本福祉大学, 社会福祉学部, 准教授 (70548768)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 介護予防 / ソーシャルキャピタル / well-bieng / 健康格差 / 健康格差縮小 |
研究実績の概要 |
「健康の社会的決定要因」(WHO)に着目し,日本におけるwell-being(幸福・健康)の社会経済的な格差の実態報告に留まらず,①要介護状態をはじめとするwell-beingが損なわれた(以下well-being毀損)状態を招くリスク要因,②well-being毀損に至る「原因の原因(cause of cause)」,③ソーシャル・キャピタル(SC)など地域レベル要因とwell-beingとの関連から格差の緩和要因などを実証的に明らかにすることを目的とした. 介護保険者である市町村の調査への協力を得るため,2003年度以降,介護保険事業計画を立案するために必要な調査を兼ねる形で高齢者を対象とする調査を繰り返してきた.その結果,39市町村に居住する約30万人の高齢者を対象に郵送調査を行い,約20万人から回答を得ることができた(回収率約7割). 2017年度には,第1に,5市町村で追加調査を行った.第2に,協力市町村との共同研究会を計4回行った.第3に,市町村の期待する地域包括ケアに関わるニーズやその充足度を,市町村間や市町村内の日常生活圏域などの小地域別に明らかにする分析を行った.第4に,交絡要因を考慮した科学的な分析のために,大規模・多面的で縦断なデータベースを構築した.第5に,データベースを活用して,多数の変数を用いて,生存分析・マルチレベル分析などを用いて,個人レベルのwell-being(幸福・健康)喪失のリスク要因,パネル分析を用いたwell-being(幸福・健康)喪失のリスクに関する原因の原因(cause of cause)の解明,地域のSC関連指標や所得格差とwell-being(幸福・健康)指標との関連などを分析している.第6に,毎月研究会を開催して,既存データと2016年調査データを活用したデータ分析を進め,国内外に発表するために,取り組みを行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度に実施したJAGES調査は,想定以上に多くの市町村の協力が得られ,調査受託費も増えたため,公的研究費だけでは不可能だった約30万人規模の大規模な調査を行うことができた.日本国内だけでなく,国際的にも例のない大規模で,多地域間比較が可能な社会疫学的な高齢者調査を行うことができた.この大規模調査に関する報告も行った(宮國 2017). 2016年度調査データおよび既存データを用いた分析でも,1)今までの調査協力自治体の既存データと結合したパネルデータを活用した,口腔機能とwell-beingの関連(mochida 2017など),2)多地域にネストされたマルチレベル分析が可能なデータを活用して,個人レベルによる要因の影響を調整した後にも,ソーシャル・キャピタルなどの地域環境要因によって,うつなどのwell-beingが影響を受けていることを明らかにできた(tsuji 2017など).3)一部の市町村ではあるが,健診データの提供が得られ結合ができたことで,まずは高HbA1cや低HDLコレステロールとフレイルとの関連を明らかにできた(Cable 2017).引き続き、well-beingとの関連について検討していく.4)日英の比較研究により,国際比較の報告も行った(aida 2017).5)地域介入研究で,社会的交流の機会との関連を報告した(細川 2017). 観察研究のみでは,逆の因果が否定できないが,地域介入研究でソーシャル・キャピタルによる健康保護効果を検証できたこと,予防策が期待されている認知症の発症も抑制可能であることを実証できた意義は大きいと考える.
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は,これまでのJAGES調査のデータ分析を進める.具体的には,1)既存データと結合したパネルデータとして, 2016年のwell-being(幸福・健康)をエンドポイントとした分析を可能とする.特に,一部の市町村では3時点パネルデータとなることから,well-being喪失のリスク(原因)だけでなく「原因の原因」を分析して,個人レベルの社会的要因が健康に影響するプロセスを一部明らかにする.2)約30市町村間で比較分析することで検出力を高め,ソーシャル・キャピタル(SC),Gini係数など地域レベルの社会的要因と健康との関連についての検証も進め,従来得られていた関連の再現性の検証や新たな知見の創出を図る.3)同一対象者を繰り返し調査する3時点パネル調査を重ねた地域における地域レベルのSCの変化と健康との関連を分析することによって,SCから健康に至る影響が存在するのかを実証的に検証する.4)幼少期の体験やライフコースなど,2013年調査から拡充した項目を用いた縦断分析を進め,より強い因果推論を行う.5)より多くの市町村から健診データの提供を得られる見込みが立ったので,バイオマーカーをエンドポイントとする分析をさらに進める.6)高齢者の生活圏域である小地域の環境要因に着目し,GISを用いた地域レベル変数を説明変数とする分析も進める.7)サロン等の通いの場への参加者を対象とする調査を引き続き実施し,参加者のwell-being(幸福・健康)の高さについての検討も進める.8)得られた研究成果を踏まえ、神戸市、松戸市、武豊町、長柄町などの市町と共同して地域介入研究を進め、理論仮説群の実証を行う。
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