研究課題
本研究は、錯視を総合的に研究することを目的としている。2015年度に特に研究が進捗した領域は色と明るさの錯視である。まず、「中間混色」などと色彩の辞書等には記述されることのある並置混色には、同時・同位置混色と同様に、加法混色と減法混色が区別されることを、プログラミングによってデモを作成し、実証した。さらに、RGB加法混色とCMY減法混色だけでなく、RGB減法混色とCMY加法混色のアルゴリズムを実現することで、加法混色は最高輝度を白と知覚する規則が適用される視覚分析系であるが、減法混色は最低輝度を黒と知覚する規則で記述するべき視覚分析系であることを明らかにした。これらの両系にはそれぞれ色の錯視や明るさの錯視のペア(たとえば、明るさの錯視においてはターゲットが明るく見える錯視と暗く見える錯視がペアとして知られていることが普通である)にそれぞれ対応することが示された。最も新しい知見によれば、色の錯視であるムンカー錯視のペアと両混色系が直接対応する可能性が見出された。色依存の運動錯視の研究としては、現象面では新しい錯視の発見が一つあった。また、どの色・輝度チャンネルがこの錯視にとって重要なのかについて調べる心理物理実験を鹿児島大学の研究分担者が担当した。その結果、想定していた杆体やipRGCの関与は小さいというデータを得た。しかし、この刺激を研究代表者が鹿児島大学まで見に行ったところ(装置は持ち運べない)、どうやら逆錯視(すなわち新型の錯視)を測定していたらしいことがわかり、現在データの解釈を再検討中である。そのほか、新型の運動錯視(2次刺激によるフットステップ錯視)の論文を発表した。
2: おおむね順調に進展している
色の錯視と明るさの錯視を統一的に説明できるモデル(並置混色の考察から誘導されたモデル)が提案され、この領域の理解に大きい貢献ができつつある。しかし、色依存の運動の錯視を説明をするための切り札となる動物実験(ノックアウトマウスを用いて杆体や光感受性神経節細胞の活動の関与を直接的に実証する計画)は動物が錯視が見えたという指標となる行動の測定法が確立できず、足踏み状態である。そのほかの研究はおおむね順調である。
錯視研究には昔から「属人的」な性質があり、これまでも研究代表者の個人的なパフォーマンスの牽引によって想定外の画期的な研究成果を次々と明らかにしてきたのであるが、誰が研究しても想定通りで一定の成果が期待できるような安定した研究のやり方も平行してできるように具体的に検討していきたい。錯視の脳機能画像研究については、本年度からfMRIとNIRSの両測定法で推進する。伝統産業の京友禅(染め)とのコラボでは、染めによる静止画が動いて見える錯視図形はその錯視量が印刷よりもはるかに多いことが容易に観察できるのだが、今のところその原因がわかっていない。この原因の追及の研究は、錯視研究に有力な情報をもたらすだけでなく、伝統産業が客を惹き付けてきた要因(そしてすたれた要因)の理解に役立つかもしれない。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
i-Perception
巻: 6 ページ: 1-4
10.1177/2041669515622085
Journal of Vision
巻: 15 ページ: 1-13
10.1167/15.8.4.