現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、発熱の問題に対して、SiCの微結晶を単結晶メサの表面上に塗布し、紫外線を照射して得られる蛍光強度の温度依存性を測定する独自の方法を開発し開発し、メサの局所的な温度を測定することに成功した。低温では鋭いホットスポットがみられた(H. Minami et al., Phys. Rev. B89, 054503 (2014))。しかし、ホットスポットはTHz波の発振には貢献することはなく、むしろ発振を阻害することが分かった(C. Watanabe et al., J. Phys.: Condens. Matter 26 (2014) 172201, ibid., Appl. Phys. Lett. 106, 042603 (2015).)。この結果は、先行研究の結果と大きく食い違う。特に、Wangら(H. B. Wang et al., Phys. Rev. Lett. 102, 017006 (2009).)によるLTSLM(低温走査型レーザー顕微鏡)ではホットスポットで観測されたメサの長さ方向の波動現象は我々の測定では全く観測されないし、また、現象の解釈もこの波動現象がTHz波の発振の原因であるとしているが、我々の解釈では縦方向の定在波による発振ではない事は周波数の測定や放射パターンの角度依存性の測定から明らかである。また、Wangら(H. B. Wang et al., Phys. Rev. Lett. 105, 057002 (2010).)はTHz波の周波数の温度依存性は誘電率の温度依存性のためであるとするが、それは電圧電流特性の温度依存性で十分説明がつくなど、多くの間違いを指摘することが出来た。 これまでの我々の研究によって、THz波発振の機構の概略は交流ジョセフソン効果とメサ自体における空洞共振効果の両者が同時に満たされるとき、強力な発振が得られることが分かった。また、メサの作製工程をKashiwagiら(T. Kashiwagi et al., Appl. Phys. Lett. 107, 082601 (2015).)の様なジグを使い、規格化することによって作成上の再現性を高めることに成功した。これによって、現在、ほぼ100%発振するメサが得られるようになってきている。
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今後の研究の推進方策 |
デバイス化にとって発振出力は極めて重要である。現状では1単独メサあたり30マイクロワット程度であるが、これをアレイ化して1 mWを超すことが目標である。 高強度化はアレイ化による複数メサの協調動作が不可欠であるが、高周波化も重要で、発振強度の最大を1.5 THz付近にセットしたい。これはテラヘルツギャップが1-2 THz帯域にある事からこれをカバーする発振器が今後、最も必要とされると考えられるからである。そのためにはメサ幅を35ミクロン程度まで細くする必要があり、このような細いメサによる発振はこれまで試みたことがない。THzギャップを克服するためにはこれを実現する必要がある。 高強度化、高周波数化には発振機構も重大な関係を持っている。発振機構の理解のためには線幅を測定することが極めて重要であり、今年度以降、Mixer技術を用いて線幅の測定を積極的に行う予定である。これまでの測定ではFT-IR装置を用いて約0.5 GHzであったが、線幅はホットスポットと共存する領域で狭く、23 MHz程度であるとの報告がある(Li et al., Phys. Rev. B86 060505(R) (2012).)。また、Liらによるとリトラップ側の発振の線幅は~GHzあり、これはホットスポットが抵抗のシャント状態を形成し、安定に発振する事として理解されているが、これを確認する必要がある。PLL(Phase Locked Loop)を形成することで線幅が1 Hz程度まで絞り込むことが可能であるとの報告もある(H. B. Wang, private Commun.)。 応用に関しては発振出力が極めて重要なパラメータとなる。これまで、透過型、反射型、CT型など各種のイメージングを行って来た(K. Nakade et al., Sci. Rep. 6:23178)。これを使ってさらにさまざまな対象のイメージング実験を実施したい。
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