研究課題
これまで、高温超伝導体の単結晶Bi2Sr2CaCu2O8+dに内在している固有ジョセフソン接合を利用し、連続、コヒーレントかつ高出力なTHz波の発振が可能である事を実験的に示してきた。平成30年度は本研究課題の終盤にあり、より高効率の発振を得るための技術開発と、デバイス化する際の様々な問題点の解決を中心的な研究課題として取り上げ、研究を行ってきた。その結果、メサデバイスの直流バイアス電流による発熱はメサ内部に局所的な温度分布を作り、いわゆるホットスポットを低温で作ることが発振効率に深刻な影響を与えることがわかった。そこで、この問題を回避するため、メサのサイズを小さくし、発熱量を全体的に抑制するとこの問題が発現しにくくなり、発熱問題を抜本的に解決できることがわかった。ところが、メサのサイズを数分の一に小さくすると、メサ自身、空洞共振器として動作させることができなくなるため、発振素子部分と空洞共振器部分を分離せねばならない構造を必然的にとらざるを得なくなった。このことは、素子構造がやや複雑化するデメリットはあるが、一方では、空洞共振器を別途、金属で加工することで、これまで以上に優れたQ-値を持つ空洞共振器に置き換えられることを意味し、結局、素子自体をTHz発振の共振器として使うのではなく、より高性能な外部共振器を別途作成することが必要となり、実際それに成功した。これは、デバイス開拓の中で画期的な進歩であると考えられ、今後、この方向に研究を先鋭化させることで、さらなる高強度、狭帯域を持つ輝線スペクトル的な発振源として開発が可能である事を強く示唆している。これに加えて、メサの保持機構や、THz波の取り出し方法、空洞内のどの点にメサを置くのかとか、給電点としての役割を100%効率化するためにはどのような給電方法があるのかなど、より具体的な技術開発が今後必要となると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題が当初、研究目標として4点の重要課題を掲げた。それらは1.THz電磁波の発振現象を理解し、その発振機構を解明すること、2.THz波集団励起モードの磁場依存性、3.外部共振器によるTHz波発振の高性能化・高機能化と内部ブランチからの個別励起、4.発熱による熱的非平衡状態の解明と液体窒素温度での動作の実現であるが、これらの内、1, 3, 4はほぼ実現した。2に関しては磁場中での装置開発が遅れており、未だ実験ができていないが、来年度(最終年度)、集中して行う予定である。また、3の内、後半の内部ブランチからの個別励起については、今後の研究の重要な方向性を与えるものであると考えられることから、別途、研究課題を立ち上げることを検討している。このように、本研究の当初計画のほぼ80%以上は既に実現されている事から、本年度の研究内容としては予定以上の進展か、控えめに見てもおおむね順調に推移していると判断した。
今後、最終年度に向けての研究の方針は、これまでの計画から大きな変更点はない。先にも述べたが、最終目標の4点の内、研究課題2は、磁場中でのTHz波の検出装置の開発が必要不可欠であり、いくつかの技術的な問題を解決しなければならない。これらの問題は難題が多いが、今後、平成31年度(最終年度)で集中的に行う予定である。また、本研究の最終目標である商業化を目指すデバイス化への研究は、来年度、特に強化したい。実用化には商品としての実用性とニーズに製品を整合させる必要があり、この点に関しては、まだまだ不十分な点が多数、残っている。その中で、耐久性も重要な商品としての特性であるが、この改善も現状では不十分であり、改善が必要不可欠である。
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