研究課題/領域番号 |
15H01997
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 光 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (90195800)
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研究分担者 |
松本 健俊 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (20390643)
今村 健太郎 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (60591302)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 結晶シリコン / 太陽電池 / 反射率 / シリコンナノクリスタル / ネットワーク構造 / 屈折率 / 化学的転写法 / 傾斜構造 |
研究実績の概要 |
化学的転写法では、10~30秒の短時間処理で表面にシリコンナノクリスタル層が形成され、反射率が3%以下に極低化する。透過電子顕微鏡写真から、表面領域に層厚が約150nmのシリコンナノクリスタル層が形成されており、ナノクリスタル層中の空孔率は表面領域では高く、深さと共に低くなることが分かった。さらに、シリコンナノクリスタル層中のシリコンナノクリスタルはすべて同一の方位(表面垂直方向が(100)方位)を有しており、粒界が存在しないネットワーク構造が形成されていることが分かった。シリコンナノクリスタル層の平均結晶サイズが約4nmであることから、4nmのシリコンナノクリスタルを含むシリコンナノクリスタル層のモデルを構築し光学的解析を行った。平均空孔率は48%と求まり、重量減少から求めた空孔率51%とよく一致した。シリコンバルクと4nmシリコンナノクリスタルの光学的定数(屈折率と消衰係数)は、シリコンバルクとはかなり異なることが分かった。シリコンナノクリスタル層の光学的定数から求めた入射光の吸収確率から、400nm以下の波長の短波長光はほぼすべてシリコンナノクリスタル層によって吸収されることが分かった。これは、シリコンナノクリスタル層を持つ太陽電池で高い光電流密度を得るためには、シリコンナノクリスタル層中で光生成した電子-ホール対を光電流に変換する必要があることを示している。 シリコンナノクリスタル層はフォトルミネッセンスを示し量子サイズ効果によってバンドギャップが拡大していることが分かった。バンドギャップは表面近傍では広く、深さと共に狭くなるgraded band-gap構造を持ち、光生成した電子とホールが効率良く分離されることが分かった。さらに、粒界のないネットワーク構造を持つことから再結合が防止されることにより、40mA/cm2以上の高い光電流密度が得られることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エリプソメトリーを用いる光学的解析、及びフォトルミネッセンス観測から、シリコンナノクリスタル層の物性を解明することができた。光学的解析から、400nm以下の短波長光はほとんどすべてシリコンナノクリスタル層で吸収されていることが分かり、短波長光の量子効率を向上されるためにはシリコンナノクリスタル層のパッシベーションが必須であることを見出した。シリコンナノクリスタル層上にリンケイ酸ガラス(PSG)を堆積して加熱することによって、PSGが融解してシリコンナノクリスタル層中の空孔を埋める結果、シリコンダングリングボンド等の表面準位が消滅することを見出した。400nm以下の短波長光に対する量子効率はパッショベーション処理を施さない場合はほとんどゼロであったが、PSGパッシベーション処理後は60~80%にまで向上した。この結果、AM1.5擬似太陽光の照射下、42mA/cm2以上の高い短絡光電流密度が得られた。このPSG処理によって、PSG中のリンがシリコンに拡散して、pn接合が形成される。すなわち、PSGパッシベーション処理はシリコンナノクリスタル層のパッシベーションだけでなく、pn接合が同時に形成される処理である。 シリコンナノクリスタル層中で光生成した電子-ホール対が光電流として有効に利用できる理由として、1.シリコンナノクリスタル層が粒界を持たないネットワーク構造を持つため粒界での再結合が起こらない、2.PSGによってシリコンナノクリスタル表面が効果的にパッシベーションされている、3.シリコンナノクリスタル層がgraded band-gap構造を持つために、ホールが表面側に電子がバルク側にスムーズに移動して再結合が効果的に防止されることによると結論することができた。このように、本研究で見出した知見を用いて結晶シリコン太陽電池を創製することによって、高効率を達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
シリコンナノクリスタル層の詳細な物性解明を行うため、バンドギャップエネルギーの深さ依存性を求める。フォトルミネッセンスの観測を種々の入射角の下で行うことによって、入射光の侵入深さを制御してフォトルミネッセンスを観測する。また、入射光の波長を変化させることによっても侵入長を変化させる。シリコンナノクリスタル層/結晶シリコン界面での価電子帯の不連続エネルギーを求めるために、X線光電子分光法(XPS)を用いて価電子帯スペクトルを観測する。化学的転写法の処理時間を変化させシリコンナノクリスタル層の層厚を制御して、価電子帯の不連続エネルギーと層厚の関係を測定する。 シリコンナノクリスタル層/結晶シリコン構造の太陽電池の変換効率をより一層向上させるために、表面パッシベーション性能を高める。この目的のために、化学的転写法の条件を最適化してシリコンナノクリスタル層の物性を制御する。例えば化学的転写処理時間を制御することによって層厚をコントロールし、HF+H2O2薬液濃度と濃度比を制御することによって空孔率と空孔サイズをコントロールする。また、PSGの種類(特に軟化温度)と堆積条件、後処理の加熱条件を最適化し、シリコンナノクリスタル層の奥深くに存在する空孔も効果的に消滅できる条件を見出す。 シリコンナノクリスタル層の物性と太陽電池の特性の関係を調べる。特に、シリコンナノクリスタル層/結晶シリコン構造の少数キャリアーライフタイムと表面物性の関係を調べ、これを高度に制御することによって結晶シリコン太陽電池の太陽電池の高効率化を行う。
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