研究課題/領域番号 |
15H02002
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中嶋 敦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30217715)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナノクラスター / マグネトロンスパッタリング / 表面光電子分光 / 液中捕捉 / 金属内包シリコン / 超原子 / 有機半導体 / 単分子膜 |
研究実績の概要 |
本課題では、機能ナノクラスター単位の創製として金属内包シリコンクラスターと希土類金属-有機分子サンドイッチクラスターの物性評価、および芳香族分子を単層膜化した秩序化分子膜の表面光電子分光、の2つの課題に取り組んだ。 機能ナノクラスター単位の創製では、本課題で開発したパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)法を用いて、16個のシリコン原子(Si)が1個のタンタル金属原子(Ta)もしくはチタン(Ti)を包み込む金属内包シリコンクラスター(Ta@Si16とTi@Si16)の超原子の研究を進めた。HiPIMS法で合成した金属内包シリコン超原子を直接液体中に捕捉する手法の構築を行い、得られた液体を溶媒の極性の違いを少しずつ変えた3段階の化学単離を経て、Ta@Si16およびTi@Si16超原子の粉末を得た。得られた超原子について、質量スペクトル、ラマンスペクトル、シリコン29の核磁気共鳴スペクトル、X線光電子スペクトルを測定し、金属内包シリコンケージ構造を確定した。また、ユウロピウム希土類金属原子(Eu)の有機金属クラスターの創製では、単環9員環のシクロノナテトラエンを配位子にすることによって、Eu単核のサンドイッチクラスターを合成した。軌道相互作用を量子化学計算から考察して、青緑色の発光を示すはじめての+2価のEu化合物としての物性を解明した。 芳香族分子を単層膜化した秩序化分子膜を、金基板上の自己組織化膜として形成させ、その構造と電子状態を、走査トンネル顕微鏡、反射赤外分光、表面光電子分光で明らかにした。芳香族分子にアントラセン分子を用いたところ、ヘリングボーン構造のアントラセンの単層膜を室温で形成できた。また、表面光電子分光から鏡像準位の電子がアントラセンのエキシトンの消光によって電子放出されることを見出し、エキシトン消光自動イオン化過程という電子放出過程を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
液中捕捉法を新たに開発し、クラスタービーム内のナノクラスターを機能単位として創製する研究を進めた。光電子分光の高感度顕微計測の手法開発を、アルカンチオール自己組織化単分子膜を対象として進めることができ、研究計画に沿って研究が進んだ。Ta@Si16とTi@Si16の超原子、有機希土類金属ナノクラスターの創製とその電子物性の解明は、国際学術誌において高く評価された。また、アントラセン分子を末端にもつ自己組織化単分子膜に対する表面光電子分光では、走査トンネル顕微鏡、反射赤外分光などを複合化させて、分子膜の秩序性に基づく新たな電子放出過程を見出すことに成功した。この電子放出過程は、電荷分離の効率を向上させるための指針として重要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で開発したHiPIMS法は、ナノクラスター単分子膜の生成法としてだけではなく、複合的な分子膜を形成させることによって、集合薄膜の物性解明にも資する手法として、さらにその意義を高めており、今後の研究では、ナノ物質科学への展開を図ることを予定している。また、時間分解2光子光電子顕微鏡の計画推進では、C60の有機分子薄膜の電子ダイナミクスを基礎として、従来よりも高感度に空間分布をイメージングする手法に目処が立ちつつある。今後の展開では、その感度向上の機構の微視的描像を明らかにしつつ、分子薄膜からナノクラスター薄膜を対象に薄膜の秩序性と電子物性の相関を明らかにする研究に取り組む。
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