研究課題/領域番号 |
15H02004
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐々木 高義 国立研究開発法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他研究員 (70354404)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 2次元ナノシート / ヘテロ累積 |
研究実績の概要 |
層状ペロブスカイト化合物(KCa2Nb3O10)とイルメナイト型酸化物(MTiO3; M= Co, Mn, Fe)の粉体サンプルを1200℃で固相反応させた結果、組成式KCa2MNb3TiO13で表されるホモロガス相がほぼ単相として生成することを確認した。得られた化合物は磁性元素をAサイトに含むこれまでに報告がないDion-Jacobson系列の層状ペロブスカイト酸化物であり、その単層剥離により新奇酸化物ナノシートの生成が期待できる。 また各種酸化物ナノシート(Ti0.87O20.52-, Ca2Nb3O10-)や酸化グラフェン(GO)のコロイド溶液に高分子量のポリエチレンイミンを滴下すると、ナノシートの単分散状態を保持したまま、表面電荷状態を負から正に転換できることを見出した。2次元ナノシートの大多数は負電荷を帯びたコロイドであり、その表面電荷をコントロールできることは、2次元ビルディングブロックとしての集積、組織化の自由度が大幅に拡大したことを意味する。 酸化チタンナノシート(Ti0.87O20.52-)とGOを、ポリカチオン(PDDA)と組み合わせて静電的自己組織化法により、順番に累積することにより、Ti0.87O2/GOのヘテロ累積膜を構築した。得られた薄膜に紫外光を照射するとTi0.87O2ナノシートの光触媒効果によりTi0.87O2/rGOヘテロ膜に変換できた。このヘテロ膜をチャネルとしてFET素子を製作したところ、紫外光下で励起電子がrGO中に高濃度蓄積されることを見出した。さらにNi/AlまたはNi/Fe系水酸化物ナノシートとGO(rGO)のコロイド溶液を混合すると、両者が交互に積層した複合体が自己組織化的に生成した。得られたサンプルを電極触媒として用いることにより、水分解の酸素発生反応が極めて小さな過電圧0.21 Vで進行することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の1年目にあたる昨年度は、重点実施項目の1)組成、構造を精密にチューニングした無機ナノシートの合成、2)2次元ナノシートのヘテロ集積・複合化、3)ヘテロ集積体デザインによる機能開拓のいずれにおいても、当初計画通りもしくはそれを上回る進捗が得られた。まずCo, Mnなどの3d遷移金属元素をAサイトに包含した新規層状ペロブスカイト酸化物の合成に成功したことは、幅広い展開の元になる重要な進展であったと考えている。これまでこれら磁性元素を含有するペロブスカイト型化合物は知られておらず、その剥離ナノシート化が達成されれば、本研究の中で重要な機能性ナノブロックとして活用できると期待されることから、現在鋭意研究を進めている。 2次元ナノシートの自在な組み合わせでのヘテロ集積、複合化を図る上では、静電的自己組織化法、ラングミュア・ブロジェット法やフロキュレーション法などのこれまでに確立してきている手法の高度化が必須であるが、これらのプロセスにおいてキーとなるナノシートの表面電荷を、反転、コントロールする手法を開発できたことも大きな前進と言える。この方法により、ナノシート同士の組み合わせの自由度が格段に広がったことになり、本研究の中で今後様々な局面で利用できると期待される。 3番目の研究項目に当たるヘテロ集積による機能開発においては、酸化物ナノシートとrGOのヘテロ累積膜が光励起キャリアーの高効率蓄積挙動を示すこと、水酸化物ナノシートとrGOのヘテロ複合体が優れた電極触媒能を示すことを明らかにし、異種ナノシート間の協奏的相互作用、混成効果により斬新な機能の発現を狙いとする本研究の戦略が有効に働くことを示した。
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今後の研究の推進方策 |
新規ナノシートの開発に向けては、上述の磁性元素ドープ新規ペロブスカイト型酸化物ナノシートの合成を継続して検討するとともに、酸化マンガンナノシートへのCo, Feの導入、Co, Fe, Ni, Mnをベースとした水酸化物ナノシートの組成、酸化状態をコントロールしたナノシートの合成などに注力する。これにより組成、構造のバラエティーに富んだ2次元ナノシートライブラリーの充実を目指す。 一方ナノシートをヘテロ集積するための選択肢の拡充を目指して、スピンコート法をベースとする新規プロセスの開発を検討する。これまでにナノシートをレイヤーバイレイヤー累積する技術として、静電的自己組織化法、ラングミュア・ブロジェット法をほぼ確立しているが、新しいメカニズムでのナノシートの稠密配列、多層累積に成功すれば学術的に大きなインパクトが期待できるだけでなく、簡便、安価な工業化向きのプロセスとしても有望であるため、重点項目として取り組む計画である。 本研究の前半期においては上記2項目に重点を置いた研究推進を行うが、本研究の最終ターゲットである異種ナノシートのヘテロ集積・複合化による機能開発についても、すでに1年目でこの研究戦略の有効性を物語る成果が得られていることから、計画を前倒しして可能なナノシートの組み合わせについて検討を行い、研究の成果拡大を図る。
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