研究課題/領域番号 |
15H02006
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村上 裕 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (10361669)
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研究分担者 |
矢島 潤一郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00453499)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人工抗体 / 1分子定量 |
研究実績の概要 |
昨年度に、mRNAとアニールをするDNAに修飾を行うことで、効率よくmRNA-ピューロマイシン複合体が形成できることが分かった。本年度は、さらに、翻訳系の様々な条件を最適化して、人工抗体選択系のさらなる効率化を行い、新しく人工抗体選択に適したTRAP提示法の構築に成功した。また、本抗体選択系を用いて、モデルタンパク質である緑色蛍光タンパク質とマルトース結合タンパク質に結合する人工抗体の濃縮に成功した。 昨年度、大腸菌では標的タンパク質の発現に問題があることが分かった。これは標的タンパク質が真核生物由来のタンパク質であり、原核生物由来の大腸菌発現系は、これら標的タンパク質の発現に適さないためであると考えられる。そこで本年度はCHO細胞発現系を用いて標的タンパク質の発現を試みた。少数タンパク質を含む10種類の標的タンパク質の、CHO細胞による発現を行ったが、その多くのもので発現レベルが低かった。これは、これらタンパク質の発現がCHO細胞の増殖に不利であったためと考えられる。そこで、CHO細胞に変わりコムギ胚芽無細胞翻訳系を用いて同様の実験を行った。その結果、コムギ胚芽無細胞翻訳系では、全ての標的タンパク質においてTRAP提示法による人工抗体選択に十分な量のタンパク質が得られることが分かった。 本研究を推進するためには、効率的に標的タンパク質をガラス基板上に修飾する必要がある。まず、エポキシ基を持つシラン化剤を用いてガラス基板の修飾を試みたが、エポキシ基の反応性が予想以上に低いことが問題となり、タンパク質が基板表面に共有結合を介して結合をしていないことが分かった。そこで、アミノ基を持つシラン化剤をもちいてガラス基板を修飾した後に、無水酸をもちいてカルボン酸を生成させ、これをNHSで活性化した。その結果、効率よくタンパク質をガラス基板上に共有結合を介して固定化できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)TRAP提示法:H29年度は、H28年に得られた知見と、翻訳系の個々の因子の遺伝子設計や、発現の条件、精製の条件、濃度などを最適化により、人工抗体選択系の効率化を行った。その結果、新しく人工抗体選択に適したTRAP提示法の構築に成功した。また、本抗体選択系を用いて、sfGFPとMBPをモデル標的タンパク質として人工抗体の選択を行い、これらsfGFPとMBPに結合する人工抗体の濃縮に成功した。H30年4月には、後述する発現系で得られるタンパク質を標的にして選択操作を試みる予定である。(2)少数タンパク質の調製:昨年度からの課題である細胞少数タンパク質の合成について、CHO細胞発現系を用いて検討したが、多くの標的タンパク質は発現しなかった。これは生細胞を使用しているためと考え、CHO細胞に変わりコムギ胚芽無細胞翻訳系を用いて同様の実験を行った。その結果、コムギ胚芽無細胞翻訳系では、全ての標的タンパク質においてTRAP提示法による人工抗体選択に十分な量のタンパク質が得られた。(3)ガラス基板修飾:本研究を推進するためには、効率的に標的タンパク質をガラス基板上に修飾する必要がある。まず、エポキシ基を持つシラン化剤を用いてガラス基板の修飾を試みたが、エポキシ基の反応性が低く、タンパク質の固定化率が低いことが分かった。そこで、アミノ基を持つシラン化剤をもちいてガラス基板を修飾した後に、無水酸をもちいてカルボン酸を生成させ、これをNHSで活性化することで、効率よくタンパク質をガラス基板上に共有結合を介して固定化できるようになった。今後は、細胞抽出液のタンパク質を固定化し、上記の抗体で1分子定量することで本プロジェクトを完成させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度の研究により、TRAP提示法を用いた人工抗体選択系が完成し、実際にモデルタンパク質であるsfGFPとMBPに結合する人工抗体の濃縮に成功した。また、H29年の研究より、コムギ胚芽を用いることで標的タンパク質の発現に成功した。H30年度は、調製したタンパク質を標的にして人工抗体を創製する。さらに、ここで得られる人工抗体群の遺伝子を次世代シークエンサーを用いて解析することで、効率的に目的とする人工抗体の同定を行う。さらに得られた人工抗体を大腸菌で発現して蛍光色素で標識し、後述の方法を用いて固定化した細胞由来のタンパク質の1分子定量に使用する。 H29年度に、ガラス基板表面の処理の検討を行い、アミノ基を持つシラン化剤で修飾、無水酸処理によるカルボン酸の生成、NHS活性化の一連の操作により、タンパク質を効率よく固定化できるガラス基板の作製に成功した。しかし、蛍光測定において、それぞれの1分子の蛍光強度がばらつくという問題があることが分かった。これは、シラン化剤としてトリメトキシシランを持つものを使用しているため、ガラス基板上に凝集体が形成され、表面に凹凸ができたためと推察される。凹凸ができることでエバネッセント波の強度が場所によって異なってしまい、蛍光強度に差が出たと考えている。そこで、本年度はモノメトキシシランを使用して、ガラス表面の均質な修飾を試みる。表面の均質な修飾は接触角の測定とAFMによる観察を組み合わせて評価する。得られた表面について、同様の操作によりNHS活性化し、細胞抽出液に含まれるsfGFPやその他タンパク質を固定化する。これらタンパク質を、上記の抗体で1分子定量することで本プロジェクトを完成させる。
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