研究課題/領域番号 |
15H02009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鷲津 正夫 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (10201162)
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研究分担者 |
オケヨ ケネディオモンディ 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 講師 (10634652)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 移植・再生医療 / 静電気 / 細胞融合 / バイオナノテクノロジー |
研究実績の概要 |
申請者らは,微細加工技術により作られた細胞核の直径より小さいオリフィスをはさんで細胞融合を行い,融合した細胞の間で,遺伝子/細胞質中の因子/細胞膜チャネル等を移植するという独創技術を開発した。これまでに,体細胞とES細胞の融合後培養法の最適化の過程において、ES細胞の持つ初期化因子によって体細胞が初期化されるという過程の経時観察に成功した。また,腫瘍細胞と樹状細胞の融合による細胞ワクチンの製作過程についても,融合後の分裂過程の50時間以上にわたる経時観察に成功した。しかしながら,これら両者の研究において,融合自体は8割以上の収率で行えるにもかかわらず,その後の生存率が低いことがわかった。 一般に,細胞はG1,S,G2,Mの四つのステージを通じて2分裂する。このうち,DNA合成が行われるのがS期であり,分裂をするのがM期であるので,S/G2/M期は遺伝子量が不定で,融合には向かないことが予想される。このことを,G1期とS/G2/M期で異なる蛍光を発するFucci HeLa細胞を用いて,G1期同士,S/G2/M期同士,G1期とS/G2/M期の融合の3種類の融合細胞の生存率の経時観察を行った。その結果,融合後1回目の分裂が生ずる割合は,どの組み合わせでも約80%であったのに対し,2回目の分裂が生ずる割合は,G1期同士の融合で62%,G1期とS/G2/M期の融合で45%,S/G2/M期同士で10%となった。この結果は,DNAのセットが正しく揃っている時に融合を行わないと以後の分裂がうまくいかないということを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体細胞とES細胞の融合後培養法の最適化の過程において、ES細胞の持つ初期化因子によって体細胞が初期化されるという過程の経時観察に成功した。現在までに,初期化例数回のうち,経時観察が行えたのは1例のみである。そこで,細胞周期と融合後生存率との関係を調べ,G1期の細胞を用いるべき事を見いだした。 一方,腫瘍細胞と樹状細胞の融合による細胞ワクチンの製作過程の研究についても,また,この細胞質移植の応用による,iPS細胞の細胞質の体細胞への移植に関しても,技術的に可能であることは実証されたが,異物を受容した細胞の生存率の低さが解決されるべき問題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
融合後生存率について,本年度は細胞周期との関係を明らかにしたが,細胞質移植に関しては,多細胞から移植される細胞質量の自細胞の細胞質量に対する割合,移植時に失われる自細胞の細胞質量,など,細胞質の移動量が融合後生存率に大きく影響を与えると予想される。特に,ES細胞やiPS細胞の細胞質を用いて体細胞の初期化を行う場合には, ES/iPSの細胞質の比率を高めることが必要になるであろうが,その時にも他家細胞質の比率が細胞の生存率に与える影響が問題になる。来年度はこの点に注目して研究を行いたい。 また,同様の技術は,細胞内在性因子・細胞表面タンパク・膜チャネル等の移植を可能にする細胞手術法,リポソーム等の人工ベシクルを利用した細胞内投薬法,など,今後の再生医療等で必要になるであろう,1細胞レベルでの機能制御・改変・分化誘導などの有力な手段となることも期待されるので,この方面への適用も念頭におきつつ開発を進める。
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