研究課題/領域番号 |
15H02012
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
内田 健一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, グループリーダー (50633541)
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研究分担者 |
塩見 淳一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (40451786)
井口 亮 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40707717)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン流 / スピンゼーベック効果 / スピンペルチェ効果 / マグノン / フォノン / 磁性材料 |
研究実績の概要 |
本研究は、スピントロニクスとフォノニクスを融合することで、熱スピン変換の高効率化原理や新奇なスピン流・熱流・音波制御技術を構築することを目的としている。H28年度に得られた主な成果は以下の4点である。
(1)スピンゼーベック効果とフォノン熱伝導率の同時定量計測の実現: スピンゼーベック素子の熱起電力・電気伝導率・熱伝導率の温度依存性を同時に定量評価可能なシステムを構築し、Pt/YIG系に適用した。スピンゼーベック効果はYIGのフォノン熱伝導率と強い相関を示し、30K付近に鋭いピークを持つ温度依存性を示すことが明らかになった。これはスピンゼーベック効果の発現機構におけるフォノン媒介プロセスの重要性を再認識させる結果である。 (2)ナノ構造化バルク磁性絶縁体におけるスピンゼーベック熱電特性の評価: 粒径を系統的に変化させたナノ構造化バルクYIGの合成に成功した。これを用いてスピンゼーベック効果と熱伝導率の定量比較を行い、YIG中ではスピン流生成を担うマグノンの特性長が熱伝導を担うフォノンの特性長よりも長いことを見出した。また、ナノ構造化によりマグノン伝搬とフォノン伝搬を独立制御することが原理的に可能であることを示した。 (3)動的サーモグラフィ技術を用いた熱スピン・熱電効果の開拓: スピンペルチェ効果の熱画像計測技術を確立し、スピン流に伴う温度変化の空間分布を初めて明らかにした(Nature Communications誌に論文掲載)。この計測技術に基づき、スピンペルチェ効果の系統測定と、新奇熱スピン・熱電効果の開拓を進めている。 (4)磁気弾性結合によって駆動されるスピンゼーベック効果の観測: スピンゼーベック効果の磁場・温度依存性を系統的に測定することにより、磁性絶縁体中のフォノンとマグノンの混成モードによってスピンゼーベック効果が増大する原理を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
低温領域におけるスピンゼーベック効果とフォノン熱伝導率の強い相関の発見、ナノ構造化バルクYIGにおけるマグノンとフォノンの長さスケール評価、磁気弾性結合によって駆動されるスピンゼーベック効果の観測など、スピンとフォノンの融合効果によって発現する新たな知見が複数得られている。加えて、本研究で構築した動的サーモグラフィ法に基づく熱スピン・熱電効果計測技術により、スピン流や磁化構造に伴う非自明な熱流生成効果が見出されるなど、研究開始当初は想定していなかった発見も相次いでいる。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度が本研究の最終年度であるため、現在得られている成果の論文化を最優先で進める。 実験については、最も進展が著しい動的サーモグラフィ計測を用いた熱スピン・熱電効果の研究を加速させ、スピン流-熱流-電流変換現象やマグノン-フォノン相関効果の更なる原理解明・体系化や、その応用機能探索を行う。
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