研究課題/領域番号 |
15H02014
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺嶋 孝仁 京都大学, 学内共同利用施設等, 教授 (40252506)
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研究分担者 |
笠原 裕一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10511941)
花栗 哲郎 国立研究開発法人理化学研究所, その他部局等, その他 (40251326)
池田 浩章 立命館大学, 理工学部, 教授 (90311737)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 重い電子系 / 界面 / 人工超格子 / STM |
研究実績の概要 |
本研究の主要な課題は(1)重い電子系希土類金属間化合物の人工超格子の作製および、その特異な超伝導性の解明と(2)重い電子系希土類金属間化合物薄膜のSTMその場観測による表面の構造、電子状態、超伝導状態の解明である。(1)については計画した(a)超伝導体/通常金属、(b)超伝導体/反強磁性体、(c)通常金属A/超伝導体/通常金属B(トリコロール)人工超格子の作製に成功し、それぞれの構造に特有の超伝導状態を明らかにした。(a)については、重い電子と通常金属の界面において、局所的空間反転対称性の破れとそれに起因する大きなスピン軌道相互作用がこの系の超伝導に大きな影響を及ぼしていることを、上部臨界磁場、磁気量子臨界点の磁場方向依存性、核磁気共鳴等により明確に示すことができた。(b)については超伝導と反強磁性が周期的に共存する系が実現し、重い電子を持つ反強磁性体CeRhIn5には長距離にわたる近接効果が生じることを明らかにした。 (c)においてはグローバルな空間反転対称性の破れによる界面効果に支配された、バルクと全く異なる超伝導状態が実現することを示した。 (2)については、MBE法により作製したCeCoIn5薄膜についてSTMのその場観測を初めて行い、f電子と伝導電子の混成ギャップ、超伝導ギャップを観測することに成功した。MBE法により超高真空中でエピタキシャル成長させた薄膜は、原子レベルで極めて平坦であり、不純物の少ない清浄な表面を有していることが判明した。この結果は原子層単位の厚みしか持たない2次元近藤格子の作製が初めて可能となることを意味している。 これらの結果は、超格子や表面においてトポロジカルな電子状態や超伝導状態が実現されることを意味しており、今後の強相関電子系の界面における物理現象の理解、新奇素子の実現に向けて大きな進展をもたらすものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究における主要な目標は重い電子系金属間化合物において初めてとなるエピタキシャル薄膜のSTMその場観測の実現である。27年度は代表的な重い電子系金属間化合物超伝導体であるCeCoIn5について、MBE法で作製したエピタキシャル薄膜をMBE装置に直結したSTMに10-8Paの超高真空中で搬送し、その表面の原子構造を観測し、併せて300mKの極低温におけるSTS測定により、f電子と伝導電子の混成ギャップなどの電子状態と超伝導ギャップの測定に成功した。また、In欠陥のまわりで、電子干渉効果による局所状態密度の空間変調を観測することにも成功した。さらに、薄膜試料では、単位胞のステップエッジに加えて、螺旋転位構造(スクリュー・ディスロケーション)などの薄膜試料の清浄表面に固有なトポロジカル構造がみられることが判明した。このような特異なトポロジカル構造や通常金属YbCoIn5の上に成長した単層のCeCoIn5で起こるd波超伝導は、強相関トポロジカル現象の一例となることが期待でき、新しい研究の展開のための基礎を確立することができた。 本研究の主要課題である、各種の人工超格子について27年度に購入した薄膜X線回折システムにより精密な構造解析を行うことが可能になった。特にCeCoIn5(超伝導体)/CeRhIn5(反強磁性体)ハイブリッド人工超格子では2つの物質の格子定数の差が非常に小さいため、従来使用していた装置では解析が困難であった。今回の装置により超格子構造が実現していることを実証できたため、当初の計画通り、超伝導と反強磁性の共存、非従来型超伝導と量子臨界状態の共存など基礎物理学的に重要な課題に展開することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はSTMその場観測による表面/界面での新奇現象の探索に注力する。特にCeCoIn5にf電子を持たないLaをドープした系の作製を行い、強相関電子系では初めてとなる近藤ホール(La3+(4f0))の周りの電子状態と散乱過程を調べ、超伝導抑制の微視的な機構の解明を行う。これにより、重い電子系化合物の近藤効果の可視化や近藤ホールのまわりの詳細な電子状態の解明が大きく進展することが期待できる。 通常金属であるYbCoIn5の上にCeCoIn5超薄膜を成長した2次元近藤格子やエピタキシャル薄膜の清浄表面上に現れる螺旋転位構造(スクリュー・ディスロケーション)などの特異なトポロジカル構造において発現するd波超伝導は強相関トポロジカル現象の一例となることが期待できる。特に、理論的に予測されているd波超伝導体と通常金属のエッジに出現するマヨラナフェルミオンについて、STM観測による局所状態密度の空間可視化により、その検証を行う。 超伝導と磁性が共存するハイブリッド人工超格子(CeCoIn5/CeRhIn5)により、磁性と超伝導の関係を解明する。上部臨界磁場の角度依存性などの輸送現象測定により、反強磁性層への近接効果、超伝導層間の結合、量子臨界性などの解明を行う。 表面・界面の電子状態を記述する有効模型に基づいて、近藤ホールや重い電子のインターフェース、そして、FFLO状態やヘリカル状態などのエキゾチックな超伝導状態を理論的に解析する。第一原理計算で得られた電子状態に、動的平均場近似などの強相関理論アプローチを適用し、次元性と電子相関、および超伝導との相関関係についての基礎理解を深め、新奇物性の探索を行う。
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