研究課題
本研究の主要な課題は(1)重い電子系希土類金属間化合物の人工超格子の作製および、その特異な超伝導性の解明と、(2)重い電子系希土類金属間化合物薄膜のSTMその場観測による表面の構造、電子状態、超伝導状態の解明である。(1)については(a)超伝導体/スピン密度波(SDW)磁性体(ハイブリッド)人工超格子、(b)通常金属A/超伝導体/通常金属B(トリコロール)人工超格子において大きな進展があった。(a)についてはCeCoIn5(重い電子系超伝導体)/CeRhIn5(SDW磁性体)人工超格子に~GPaの高圧力を加え、CeRhIn5を量子臨界点に到達させると、界面から反強磁性ゆらぎがCeCoIn5層に注入されることにより、CeCoIn5が超強結合超伝導状態となることを明らかにした。(b)についてはYbCoIn5/CeCoIn5/YbRhIn5人工超格子において、トリコロール構造に起因するグローバルな空間反転対称性の破れが導入されることにより、超伝導上部臨界磁場(Hc2)におけるパウリ常磁性効果の抑制が非常に大きくなり、バルクと全く異なる超伝導状態が実現することを示した。また、Hc2の温度変化において、低温でストライプ超伝導、あるいはヘリカル超伝導状態の存在が示唆される結果が得られた。(2)については、不純物としてZnをドープしたCeCoIn5薄膜についてSTMのその場観測を行い、CeIn層にあるIn(1)サイトを置換したZn位置では、f電子と伝導電子の混成ギャップが抑制されるが、CeIn層の上下にあるIn(2)サイトを置換したZn位置ではほとんど抑制されないことを明らかにした。さらに、混成ギャップ内で、微分コンダクタンスにZn不純物に特有なピーク構造が現れることを明らかにした。以上、f電子系における界面制御により、従来にない新奇超伝導現象を発現させることに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
28年度は超伝導体/スピン密度波(SDW)磁性体ハイブリッド人工超格子において大きな進展があった。ロスアラモス国立研究所(米国)との共同研究により、基板上に成長したエピタキシャル薄膜、人工超格子について~GPaの高圧力を印加して、極低温まで輸送現象を測定する技術を確立することができた。これまで、人工超格子において、制御パラメータとしては不連続である層数の変化により、量子臨界性の制御を行ってきた。今回、連続的にパラメータを変化させることができる圧力変化により、精密に量子臨界点付近の物性変化を観測することが可能になった。CeCoIn5/CeRhIn5人工超格子において、~GPaの圧力を印加し、CeRhIn5を量子臨界点に到達させると、界面を通してCeCoIn5層に磁気ゆらぎが注入されることで、超強結合超伝導状態になることが明らかになった。トリコロール人工超格子では超伝導層から見て、グローバルな空間反転対称性の破れが導入されることにより、CeCoIn5/YbCoIn5等の局所的に空間反転対称性が破れた2層系人工超格子の場合と比べて、超伝導上部臨界磁場(Hc2)についてパウリ常磁性効果が大きく抑制され、軌道効果による抑制とほぼ同程度という、バルクと全く異なる超伝導状態が実現することが明らかになった。さらに低温においてHc2が上向きの温度変化を示し、理論的に提唱されているストライプ超伝導、ヘリカル超伝導を示唆する結果が得られた。27年度に重い電子系金属間化合物において初めてとなる、CeCoIn5エピタキシャル薄膜のSTMその場観察に成功したことに続き、28年度はCeCoIn5に不純物としてZnをドープした系について、サイト選択的にf電子と伝導電子の混成ギャップの抑制について明らかにすることに成功した。
本年度はSTMその場観測による表面/界面での新奇現象の探索に注力する。特にCeCoIn5においてCeの一部を、f電子を持たないLaで置換した系の作製を行い、強相関電子系では初めてとなる近藤ホール(La3+(4f0))の周りの電子状態と散乱過程を調べ、超伝導抑制の微視的な機構の解明を行う。これにより、重い電子系化合物の近藤効果の可視化や近藤ホールのまわりの詳細な電子状態の解明が大きく進展することが期待できる。また、Ceの一部をNdで置換した系の作製も併せて行い、SDWが発現する過程をミクロスケールで解明する。YbCoIn5上に成長した単層のCeCoIn5超薄膜について、理論的に予測されているマヨラナフェルミオンの出現を、STM観測による局所状態密度の空間可視化により検証を行う。また、エピタキシャル薄膜の清浄表面上に現れる螺旋転位構造(スクリュー・ディスロケーション)などの特異なトポロジカル構造において発現するd波超伝導は強相関トポロジカル現象の一例となることが期待でき、STMその場観測により超伝導状態の研究を行う。28年度に作製に成功した、超伝導と磁性が共存するハイブリッド人工超格子(CeCoIn5/CeRhIn5)について、上部臨界磁場の角度依存性などの輸送現象測定により、反強磁性層への量子ゆらぎの注入効果、超伝導層間の結合、量子臨界性などの研究を多角的に行い、磁性と超伝導の相関について理解を進める。近藤ホールや重い電子のインターフェース、そして、FFLO状態やヘリカル状態などのエキゾチックな超伝導状態について、表面・界面の電子状態を記述する有効模型に基づいて、理論的に解析する。第一原理計算で得られた電子状態に、動的平均場近似などの強相関理論アプローチを適用し、次元性と電子相関、および超伝導との相関関係についての基礎理解を深め、新奇物性の探索を行う。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 3件、 査読あり 11件、 謝辞記載あり 11件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 6件、 招待講演 10件)
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