研究課題/領域番号 |
15H02016
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐崎 元 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60261509)
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研究分担者 |
古川 義純 北海道大学, 低温科学研究所, 特任教授 (20113623)
長嶋 剣 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60436079)
村田 憲一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60646272)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 氷 / 表面化学反応 / 可視化 / 酸性ガス / 高分解光学顕微鏡 |
研究実績の概要 |
H27年度には以下の3点を実施した. 1.ガス供給システムの開発(佐﨑,長嶋):北海道エア・ウオーター株式会社と共同で,任意の濃度で水蒸気および酸性ガスの混合ガスを作製するための,混合ガス供給システムを開発した.本システムは,本研究での全ての実験で利用される. 2.氷表面上でのHClガスの吸着・融解反応の直接観察(長嶋,村田,古川):0.1%濃度のHClガス(分圧100 Pa)を含む窒素ガス(全圧は1気圧)を,観察のための単結晶氷を成長させた観察チャンバーの内部に10 mL/minの流量で5分間導入した(チャンバー内部容積の10倍量のガスをチャンバーに導入).その後,様々な温度及び水蒸気圧のもとで,氷結晶のベーサル面をレーザー共焦点微分干渉顕微鏡を用いてその場観察した.その結果,HClガスが存在しないと擬似液体層が発生しない-15.0~-1.5°Cの温度領域中でも,HClガスが存在すると液滴状の擬似液体層が生成することを見出した.この液滴が未飽和な水蒸気圧下でも1時間以上安定に存在したことより,液滴は0°C以下の温度でも熱力学的に安定なHCl水溶液であると考えられる. 3.氷結晶表面での化学反応のラマン分光分析(佐﨑,長嶋):本項目は,H27年度に当初計画していたが,予備実験を行ったところ,ラマン分光では感度が不足していることがわかった.そのため,当初計画していたラマン分光ではなく,より感度が高い赤外分光を行うための光学系を開発するよう,計画を変更した.この計画変更にともない,H27年度に使用予定であった280万円をH28年度に繰り越すことにした.そして,H28年度に,繰り越したお金で赤外分光のためのフーリエ変換型赤外分光光度計を購入するとともに,本分光器より赤外光を取り出し光学顕微鏡上の試料氷表面を分析するためのシステムの基本設計を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
氷結晶表面で進行する化学反応を,ラマン分光計で分析する予定であった.しかし,予備実験を行ったところ,ラマン分光では検出感度が不足していることがわかった.そのため,当初計画していたラマン分光ではなく,より感度が高い赤外分光を行うための光学系を開発するよう,計画を変更した.この計画変更にともない,H27年度に使用予定であった280万円をH28年度に繰り越すことにした.そして,H28年度に,繰り越したお金で赤外分光のためのフーリエ変換型赤外分光光度計を購入するとともに,本分光器より赤外光を取り出し光学顕微鏡上の試料氷表面を分析するためのシステムの基本設計を終えることが出来た. 上記の事情により,H27年度に行う予定であった化学反応の分析はH28年度以降に先送りになったが,H28年度には分光光学系のめどを立てることが出来た.また,氷表面上でHClガスによって引き起こされる吸着・融解反応を直接可視化するという最重要項目はきちんと達成することが出来た.そのため,本報告書を作製しているH29年4月の段階では,研究はおおむね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
上記の様に,氷表面での化学反応を分析するための手段が,ラマン分光法から赤外分光法に変更になった.それに伴い,上記の様に,H27年度に行う予定であったラマン分光分析を取りやめ,H28年度に赤外分光のための光学系の装置の購入及び光学系の基本設計を行った.また,H28年度の実績報告書に記載した様に,H28年度には,超高感度位相差顕微鏡を予定通り開発することが出来た.さらに,H28年度には,氷結晶中にHClが取り込まれる機構を解明することにも成功し,想定外の大きな成果を得ることが出来た. 今後H29年度には,基本設計を終えた顕微赤外分光光学系を実稼働させるとともに,様々な水蒸気圧・HClガス濃度のもと,氷結晶表面上でのガス吸着・融解反応を追跡する予定である.特定の部位の化学情報を,優れた空間・時間分解能でその場計測するところが,これまでの研究と決定的に異なる.また,同様の観察・分析実験を,硝酸,蟻酸,酢酸などの酸性度が異なるガスについても行う.これにより,氷結晶上の酸性ガスの吸着・融解反応を総合的に明らかにできると期待している.さらに,酸性ガスの吸着・融解反応によって氷表面に生じる液体相の濡れ角を二光束干渉計で計測することで,液体相の物性を測定することも計画している.そして,上記で得られる知見を総合することで,これまでの分光学的研究ではわからなかった,酸性ガスの吸着・融解機構を解明する.
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