研究課題/領域番号 |
15H02016
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐崎 元 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60261509)
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研究分担者 |
長嶋 剣 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60436079)
村田 憲一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60646272)
古川 義純 北海道大学, 低温科学研究所, 名誉教授 (20113623)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 氷 / 表面化学反応 / 可視化 / 酸性ガス / 高分解光学顕微鏡 |
研究実績の概要 |
H28年度には,以下の3項目を実施した. 1.超高感度位相差顕微鏡の開発(佐﨑,村田):ビデオレートでの高速な観察が可能である位相差顕微鏡を,極限まで高感度化することで,氷結晶表面での分子高さレベルの現象を高速でその場観察するための顕微鏡システムの開発に取り組んだ.具体的には,倒立型光学顕微鏡の左側ポートより試料からの透過光を取り出し,リレー光学系で新たに作製した対物レンズの後ろ焦点面位置に液晶を利用したデバイスを設置し,試料からの透過光を任意の割合で減じてから回折光と干渉させることができるシステムを構築した.これにより,氷の表面観察において感度を飛躍的に増大させることが可能となった. 2.氷結晶へのHCl取り込み機構の解明(佐﨑,長嶋,古川):H27(2015)年度には,氷上に吸着したHClガスが,氷表面を融解させる過程を初めて可視化することに成功した.H28年度にはさらに,様々な温度,水蒸気圧のもとで,HClガス存在下での氷結晶表面をレーザー共焦点微分干渉顕微鏡を用いてその場観察した.その結果,氷結晶が成長している場合には,単位ステップが横方向に成長するにつれて氷表面上のHCl水滴を取り囲み,さらにHCl水滴を氷結晶内部に取り込むことを見出した.この成果は,極地の上空に生成する極成層圏雲(氷)が大量のHClを保持する機構を明らかにできたことを示しており,環境科学の観点から極めてインパクトが高い.現在,論文を執筆中である. 3.氷結晶表面を分光分析するための赤外分光光学系の開発(佐﨑,長嶋):フーリエ変換型赤外分光光度計を新たに購入した.そして,本分光器より赤外光を取り出し,光学顕微鏡上の試料氷結晶の表面を分析するためのシステムの基本設計を行った.これに基づきH29年度には,本システムを実稼働させ,氷結晶表面での化学反応の追跡を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.赤外分光光学系と光学顕微鏡を合体させたシステムの開発は,当初の予定よりもやや送れていた状況にあった.しかし,氷結晶表面上での分光学的実験の世界的権威であるProf. Patric Ayotte(シャーブルック大学,カナダ)を招聘して教えを請うことで,システムの基本設計を終えることが出来た. 2.また,H28年度に明らかにすることが出来た「氷結晶中へのHClが取り込まれる機構」は,極域でのオゾンホール形成のトリガーとなるため環境科学の観点から極めて重要な,そして当初想定していなかった発見である. 上記の1,2を勘案して,おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
H29年度には以下の4点を実施する. 1.反応ダイナミクスの計測(佐﨑,長嶋):H28年度に基本設計を終えた顕微赤外分光光学系を実稼働させる.そして,様々な水蒸気圧・HClガス濃度のもと,氷結晶表面上のガス吸着・融解反応を追跡する.また,塩酸ガスが氷結晶の単位ステップの成長速度に及ぼす効果についても明らかにする.さらに生成したイオン種の赤外・ラマンスペクトルを計測することで,化学反応速度を計測する.氷結晶表面上での表面モルフォロジーを直接観察しながら,特定の部位の化学情報を,優れた空間・時間分解能でその場計測するところが,これまでの研究と決定的に異なる. 2.反応性ガスの種類と反応性(佐﨑,長嶋,本経費で雇用の学術研究員):1.で行ったのと同様の計測を,硝酸(H28年度に計画していたがH29年度に持ち越した),蟻酸,酢酸などの酸性度が異なるガスについても行う.酸性度が弱くなるほど,テラス上では吸着・融解反応は進行しにくく,ステップ上でのキンクで反応が進むものと予想される.また,酸性度が異なると,氷結晶表面での反応サイト自体が異なることも予想される.様々な酸性度のガスの反応性を調べることで,氷結晶上の酸性ガスの吸着・融解反応を総合的に明らかにできると期待している. 3.液体相の濡れ角の計測(佐﨑,村田,本経費で雇用の学術研究員):酸性ガスの吸着・融解によって氷結晶表面に生じる液体相の濡れ角を二光束干渉計で計測することで,液体相と氷との界面自由エネルギーを通じて,液体相の物性を測定できる.反応の進行に伴う液体相の物性の変化からも,進行する化学反応についての情報を得ることができると予想している. 4.酸性ガス吸着・融解機構の解明(佐﨑,長嶋,村田,古川):上記1-3で得られる知見を総合することで,これまでの分光学的研究ではわからなかった,酸性ガスの吸着・融解機構を解明する.
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