研究課題/領域番号 |
15H02025
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
金 有洙 国立研究開発法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 主任研究員 (50373296)
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研究分担者 |
三輪 邦之 国立研究開発法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 訪問研究員 (60734390)
川合 真紀 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (70177640)
今田 裕 国立研究開発法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 協力研究員 (80586917)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 単分子発光分光 / 単分子吸収分光 / 単分子振動分光 / プラズモン-励起子 結合 / エネルギー散逸 / 走査プローブ顕微鏡 |
研究実績の概要 |
強い可視光の発光を示す分子であるフタロシアニンとPerylenetetracarboxylic dianhydride (PTCDA)を用いて、可視光のSTM発光分光測定実験を行った。フタロシアニンは非常に強いSTM発光を示す一方で、PTCDAではSTM発光強度が非常に弱いという事を発見した。強いSTM発光強度を得るためには分子本来の分子軌道と、金属基板の電子状態の間のエネルギーレベルアライメントが重要であることを示す結果である。 実験結果に基づき、強いSTM発光を得るための条件をまとめ、詳細なキャリア・エネルギーダイナミクスを理論的に記述する事にも取り組んだ。STM発光の機構には、エネルギーレベルアライメント、クーロンブロッケード、共鳴トンネリング、プラズモン増強などが関与しており、従来提唱されていたモデルでは説明できない現象の詳細を解明する事が可能になった。 フタロシアニンを用いたSTM発光分光の実験では、可視光発光に伴う分子振動励起過程を詳細に解析し、10種類以上の分子振動モードが電子遷移に伴い励起されることを見出した。先行研究との比較や密度汎関数理論による分子振動モード解析によって、それぞれの分子振動モードの同定にも成功した。 可視光のSTM発光分光を用いて、分子励起子と局在プラズモンとの相互作用の詳細な解析を行った。局在プラズモンの近接場内に分子を置くと、分子励起子と局在プラズモンの間でエネルギー移動が起こることを発見し、さらに、この新しい原理に基づいた単一分子吸収分光法が可能であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
可視STM発光分光に関しては実験面・理論面において、当初想定していたよりも大きな進展があった。主な成果としては、新しい原理に基づいた単分子吸収分光の開発、プラズモン-励起子相互作用の詳細の解明と量子力学的干渉効果の観測、単分子STM発光機構の解明、単分子STM発光における分子振動モード同定、二分子間ダイポール相互作用の解析、などの当初の計画以上の成果を得ることができた。 一方で、テラヘルツSTM発光に関しては、実験装置に不具合が生じ研究計画に遅れが生じている。テラヘルツSTMの復旧のためには可視STM発光の研究を中断する必要があったが、可視STM発光の推進を優先したために、テラヘルツSTM発光の開発を遅らせる判断をした。十分な再発対策を行い、研究の推進に努める。
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今後の研究の推進方策 |
世界的な状況としては、2016年に入り二報の重要な可視STM発光の論文が発表された。一方はフランスのグループから(Phys. Rev. Lett., 116, 036802 (2016))、もう一方は中国のグループからである(Nature, 531, 623 (2016))。今後、可視STM発光においては、我々を含めた3グループを中心に熾烈な競争が予想される。世界に先んじるためにも、可視STM発光研究の推進は急務である。 この状況を鑑みると、当初予定していた可視STM発光とテラヘルツSTM発光を同一の実験装置に組み込む方針を修正し、それぞれ独立に可視STM発光の推進と、テラヘルツSTM発光の開発作業を進めるべきである。同一の装置を用いる問題点としては、テラヘルツSTMに関する問題が生じている場合、復旧のためには可視STM発光の研究を中断する必要があった。
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