研究実績の概要 |
本年度我々は、可視STM発光を応用した全く新しい原理に基づく吸収分光を実現して、報告を行った(Imada et al., Phys. Rev. Lett. 119, 013901 (2017))。この手法では、STMのトンネル電流によって誘起された局在表面プラズモンをナノスケールの励起源に用いる事で、従来の吸収分光法の問題点であった照射光の大きなバックグラウンドを実質ゼロにすることができ、単一分子感度と1 nmの空間分解能を初めて実現した。測定結果には、単一分子の電子励起状態だけではなく振動状態の励起に対応するFine structureが多く含まれており、特筆すべきは他の手法では計測する事が難しいテラヘルツエネルギー領域の情報も取得する事に成功した。 さらに、可視STM発光では、単一分子の励起子と局在表面プラズモンとの相互作用を解明・最適化し、従来報告のあった発光効率から10倍ほどの効率向上が実現された。その結果、高い時空間分解能でトンネル電流と単一分子発光の同時計測が可能となり、これまで不明であった電子輸送による単一分子内での励起子の生成と消滅過程を解明しさらに可視化する事に成功した。 励起状態における分子間相互作用の詳細を調べるため、STMの分子操作技術で二分子間の相対位置関係を原子精度で制御し、単一分子吸収分光で光学特性評価を行った。分子間距離が近づくと、双極子相互作用によるエネルギーシフトとスプリットが観測された。特に、分子間距離に対して分子の遷移双極子の大きさが無視できるほど小さいというpoint dipole approximation、その破綻を実験的に初めて示す事ができ理論的に詳細を解明する事が出来た。
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