研究課題/領域番号 |
15H02032
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
堀 勝 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80242824)
|
研究分担者 |
近藤 博基 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50345930)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | プラズマ加工 / カーボンナノウォール / 細胞分化 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、グラフェンシートが垂直に並んだ三次元ナノ構造を有するカーボンナノウォール(CNWs)上において細胞分化誘導の誘起とその制御を行うデバイスの作成を行った。本デバイスはシートエッジが酸素、窒素、フッ素、水素により終端されたCNWsを使用することでシートエッジの化学終端による細胞培養への影響を系統的に評価することができるとともに、培養細胞に対して微小な電気刺激を与えることができる機能を有しており、電気刺激による細胞の培養および分化誘導への影響を調査することが可能である。まず構築したデバイスを評価することを目的に、シートエッジが水素原子により終端されたTi基板上のCNWsを用いたデバイスにおいて骨芽細胞を培養し、CNWs上において細胞数が増加することを確認するとともに、電気刺激の付与によってその増殖に影響を与えることが判明した。さらに、CNWsをはじめとするカーボン薄膜合成に使用するラジカル注入型プラズマCVD装置により製膜されたアモルファスカーボン薄膜において、グラフェンおよびダイアモンド構造に起因するsp2、sp3結合の比率を、放射光を用いたX線吸収分光法(XAS)により得られたX線吸収微細構造(NEXAFS)から評価するとともに、プラズマ内部のラジカル種制御によりアモルファスカーボン薄膜に含まれるsp2結合の比率の制御に成功した。そして異なる結合状態のカーボン薄膜を合成した後にアルゴンガスを用いた大気圧プラズマ処理により超親水化された薄膜表面において細胞培養実験を行い、薄膜表面におけるカーボン結合状態が細胞培養に与える影響を調査するための研究を実施した。また、今回導入したフーリエ変換赤外線分光装置を用いた細胞とCNWの接合界面状態を分析するシステムの構築はほぼ完了しており、今後はこれを使用して接合界面状態や化学構造変化の解析を実施していく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、これまでにカーボンナノウォール(CNW)の合成時において、入射するイオンの方向を制御することによって自己組織的に成長させる技術およびラジカル制御プラズマ技術によってCNWのシートエッジを水素、フッ素原子により終端する技術の構築に成功している。そして、これら技術により合成されたCNW上において細胞を培養し、電気や光刺激による細胞反応を評価するためのデバイスの構築にも成功している。さらにCNWsをはじめとするカーボン薄膜合成に使用するラジカル注入型プラズマCVD装置により製膜されたカーボン薄膜の結合状態の比率の放射X線解析を実施し、初めて定量的に明らかにするとともに、プラズマ内のラジカル種比率のコントロールによりカーボン薄膜の結合状態の制御に成功した。CNW上での細胞培養時における各種刺激およびシートエッジ終端による影響が与える生体細胞のシグナル伝達やその機能を分子バイオロジーで評価する研究は現在も遂行中であるが、全体的な研究の進捗状況は良好であるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度およびそれ以降は、引き続き単一立体細胞の分化誘導制御技術の開発を進める。ガラス状では紡錘状を示すのに対して、CNW上では球形の細胞形態を示し、分化(分裂・増殖)することがわかっている。その特性の発現には、シートナノエッジからの電子化学作用が影響しており、単一立体細胞の特定部位を電子、磁性、化学的に刺激し、細胞の感受性や分化誘導に与える影響を解明する。そして得られた成果をもとに、単一立体細胞とシートナノエッジCNWとの相互作用の体系化と幹細胞分化誘導制御バイオデバイスの作製を行う。CNWマトリクスアレイから注入される光電子・磁気刺激が誘起する単一立体細胞内の特性(感受性、応答性)を分子生物学的特性(ウエスタンブロット法等でシグナル伝達)かつ分子化学的特性(キャピラリー電気泳動質量分析装置、レーザー誘起脱離法でDNA、タンパク質、アミノ酸、脂質等)を解析し、幹細胞の接着と分化誘導制御のための細胞成長因子の解明と成長を制御した再生医療に適した革新的立体細胞合成用のバイオデバイスを完成させる。これらの結果を体系化し、プラズマ誘起単一細胞エレクトロニクスの創成とそのバイオデバイス応用技術として確立する。
|