研究実績の概要 |
タンパク質1分子の観察は驚異的な発展を遂げており、生体内における分子ダイナミクスを高速・高精度性に観察することが可能となってきた。量子プローブ唯一の1分子動態情報を取得できるX線1分子追跡法 (Diffracted X-ray Tracking; DXT) は、佐々木らによって1998年に考案され、今日まで困難と言われてきた巨大分子に対しても分子動態を明確化してきた。DXTは目的のタンパク質をナノ結晶で標識し、ナノ結晶からのX線回折スポット (ラウエ法)の角度変化を観測し、マイクロ秒の高時間分解能でかつナノメートルの高空間分解能でタンパク質1分子の内部運動計測を実現した。分子動態計測は色々な系で実現しており、DNAや膜タンパク質分子(bR, KcsA, nAChR,α7AChR, AChBP, GLIC)の分子内部運動の1分子計測に成功してきた。しかし、現在までDXT法はそれほど普及していない。普及しない1つの理由に、白色X線を用いた計測であることが挙げられる。通常の放射光施設は9割以上のユーザーが単色X線を利用するので、近年では、ビームライン設計段階で白色X線の利用は検討されることは少なくなってきた(最近は徐々に白色X線が見直されてきた)。そこで我々は、DXTを改良して多くのユーザーに使われることを目的に、単色X線を用いた回折強度の自己相関を測定することで回折スポットの運動特性評価の可能性を提案し、実験的に確認することに成功した。この単色X線を使用した回折1分子計測法では、得られる回折スポットのすべての動きを追跡することはできないが、回折X線強度の明確な点滅(Blinking X-ray: X線ブリンキング)を検出することができる。我々は、このX線ブリンキングから生体内の局所的な環境に依存した単一分子動態を評価した。
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