本研究は、タンパク質などの大規模分子の量子化学計算・量子分子動力学に資する第3世代密度汎関数法アルゴリズムを世界に先駆けて展開し、基盤技術を構築することを目指している。第3世代密度汎関数法アルゴリズムを基に、近似なしの大規模カノニカル分子軌道計算1点のみならず、本格的な動的分子構造計算法として展開し、正攻法による自由エネルギー計算法の確立することを目的とした。 本年度は、タンパク質カノニカル分子軌道計算が可能なProteinDFをベースとしたBorn-Oppenheimer分子動力学(BO-MD)計算プログラム、ProteinDF-Gromacs連携システムを利用し、実際に小規模タンパク質のBorn-Oppenheimer分子動力学計算を行った。タンパク質カノニカル分子軌道において、その初期分子軌道の作成にはQCLO法を採用した。また、ProteinDF-Gromacs連携システムにおいて、分子動力学計算における時間ステップごとの計算構造とその電子状態を保存することによって、分子軌道に基づく分子動力学シミュレーション解析が行えるように工夫した。 一方、依然としてカノニカル分子軌道計算は高価であり長い計算時間が必要なため、これに代わる高信頼性分子動力学計算法として、カノニカル分子軌道計算から得られた原子電荷を用いた分子動力学法の研究開発とその評価を行った。多くの分子動力学計算ではアミノ酸一残基毎に量子化学計算により求められた静電ポテンシャルを再現するRESP電荷が用いられる。これはアミノ酸残基がタンパク質中の如何なる構造・環境においても同一アミノ酸残基であれば同じ電荷であることを意味する。本研究では、タンパク質全体が生み出す静電ポテンシャルをカノニカル分子軌道計算により算出し、その静電ポテンシャルを反映する原子電荷を回帰計算によって算出した。いくつかの回帰計算によって得られた電荷を用いて実際に分子動力学計算を行い、評価を行なった。
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