研究課題/領域番号 |
15H02048
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺杣 友秀 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (50192654)
|
研究分担者 |
松本 圭司 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30229546)
志甫 淳 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (30292204)
ガイサ トーマス 立教大学, 理学部, 教授 (30571963)
齋藤 秀司 東京工業大学, 理学院, 教授 (50153804)
木村 健一郎 筑波大学, 数理物質系, 講師 (50292496)
花村 昌樹 東北大学, 理学研究科, 教授 (60189587)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | モチーフ / 周期積分 / 代数的サイクル |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き、いくつかの特徴的な代数的サイクルと関連する多様体について、高次チャウ群や関連する周期積分の問題について、代数性の問題、周期と微分方程式の問題や基本群や算術的基本群に関する問題に取り組んだ。その一つがフェルマー曲面とその部分多様体に関連して、周期積分のある種の有利性について取り組んだ。これは昨年から懸案になっていた問題で、ホッジサイクル条件を満たすフェルマー曲面の有理数係数コホモロジー類とフェルマー曲面に含まれる直線の配置からくるコホモロジーの拡大として現れる相対コホモロジーと標準的な微分形式のペアリングに関する問題である。これまで、この組み合わせからくる周期積分が代数的数における対数関数の値と代数的数の有理数係数一次結合に書かれることがわかっていた。これらが実際にどのようにあらわされるかというのは、懸案の問題であった。ホッジサイクルの分類定理により、次数がkの倍数の場合、(ただしk=1,2,3,4)が主要な場合として挙げられるが、これまでわかっていたのはk=1と2の場合のみであった。今年にはいって3の場合と4の場合が証明された。青木氏と塩田氏によって知られている代数的サイクルの明示的表示がカギとなる。実際に代数的サイクルに対数的極を持つ微分形式の存在と基本類が埋め込みによって消滅することが計算の基礎的なアイデアである。さらに以前に多重対数に関するブロック・クリス・サイクルから作られるブロック・クリス・ホップ代数上の余加群の構成の幾何学的な意味づけを行った。その考えを推し進め、ベイリンソン・ゴンチャロフ・シェヒトマン・バルチェンコによる青本超幾何ホッジ構造に対応するブロック・クリス・ホップ代数上の余代数を構成した。ここで鍵となるのは、アファイン空間上とその一点のあいだのホモトピー同値をつくることである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画当初では高次チャウ群の具体的な様子や混合ホッジ構造を周期積分に応用して多様体の様子がどれくらいわかるものなのか、未知数の部分が多かった。研究課題の一つとして大きな課題として挙げていた多重ゼータ値の深さフィルトレーションのモチーフ的な意味づけをすることに関してはいまだ研究の途中段階にあるものの、これとかかわる混合テイト・モチーフの周期積分に関連しては様々な進展があった。そのひとつが、青本多重対数関数をモチーフ的に構成できることがわかったことで、その手法も込めて今後の応用も十分期待できるものである。またこの2年くらいの間で混合ホッジ構造の具体的な応用例として超幾何関数と高次チャウ群の関連が朝倉・大坪両氏によって観察されていたが、混合ホッジ理論の観点からさらに精密な結果が得られた。そこでは古典的な代数的サイクルが関与していることが観察されて、実際に代数的サイクルにそった対数的極をもつ微分形式を有効に用いるという手法はとても自然な手法であり、今後の発展も期待される。開フェルマー曲面の観点から研究されたが、曲線上のファイブレーションを持つ一般的な曲面に対しても応用が期待される。また高次チャウ群を豊富に持つ多様体については、これまで問題が漠然としており、実際に高い関数の多様体がどれくらいあるかということに関してはあまりわかっていなかった。これに関して高い階数をもつ具体的な多様体の例として曲面のペンシルの生成ファイバーとして構成された。そのときに構成された元の独立性を示すために用いられた手法は、モノドロミー重さフィルトレーションに関する重さスペクトル系列を用いるもので、このような問題への応用として新しい方向性がみつけられたといえる。これにより、初めて高次チャウ群の様な抽象的な群の階数が大きな多様体を目で見える形で構成したことには大きな意味があると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
多重ゼータ値の深さフィルトレーションと関連して、混合楕円モチーフの退化に現れる混合テイト曲線モチーフの研究をさらに深めなければならいことが、これまでの研究以外にゴリショフ・ザギエの最近の結果から観察される。これは実際にはファノ多様体の超平面として現れる多様体のミラー対称性と関連しており、上記両氏の計算したものはK3曲面の退化族の周期積分が満たす微分方程式である。これが久我・佐武構成法、あるいは猪瀬・塩田構成法のもとになる楕円曲線の退化ファミリーと関連していることがわかっている。楕円曲線の退化として現れる混合テイト曲線モチーフの周期が表れていることはザギエによる微分方程式の解のテーラー係数の漸近公式に表れている。周期の極限として多重ゼータ値が表れるのはこれまでよく研究されている現象であるが、級数の係数の漸近公式に多重ゼータが表れるということは新しい現象であり、これに合理的な説明を与えることは今後の大きな目標であると思われる。 また代数体上の混合テイト・モチーフの対数基準写像として、どのような関数の特殊値で書けるかというのは大きな問題でそのなかでも最も強い形の予想として多重対数に関するザギエの予想がある。もう少し弱い形で単数基準のすべてが青本多重対数関数を用いれば表せるかという問題も考えられる。ホモトピー・修正理論はその点で新しい手法を与えており、ある種の特殊関数で単数基準を具体的に構成する問題を解決する手がかりとなるのではないかと考えられる。近年のゴンチャロフの研究により明らかにされた、スタシェフ多面体により統制される多重対数関数の関数等式は一般線型群の分類空間のコホモロジーの周期を記述するために有用であると思われる。そこではグラスマン多様体が関連しており、青本多重対数関数とグラスマン多様体のコホモロジーの関連を明らかにする必要がある。
|