研究課題/領域番号 |
15H02050
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
辻 雄 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (40252530)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | p進表現 / perverse層 / 数論的D加群 / Higgs束 / 整p進Hodge理論 / p進Simpson対応 |
研究実績の概要 |
p進Simpson対応については,前年度までの研究で半安定還元を持つ環に対する有理係数局所p進Simpson対応が完成していた.しかし半安定還元な多様体は一般にファイバー積で保たれないため,応用上より一般のlog smoothな環でも同様の結果があることが望ましかった.今年度は,生成ファイバーのlog構造が正規交叉因子から定まるlog smoothな環の場合でも定理が成り立つことを証明し,それに伴い論文を大幅に書き改めた.証明の鍵となるSenの理論の幾何版において, log座標とlog 構造を定めるモノイド(の整構造)の関係が明示的にかけない困難をどう克服するかが主な問題であった.また4月の本科研費によるIHES滞在中のMatthew Morrow氏との議論をきっかけとして,Bhatt-Morrow-Scholzeの整p進Hodge理論の係数理論についての研究を行った. smoothな環上のFaltingsの整crystalline表現の理論についてFargues-Kisin理論の相対版を構築し,BMSの意味での「ずらし」ガロア・コホモロジーが,定数係数の場合のBMSの結果と同様,整crystalline表現に対応するde Rham複体を復元することを示した.この局所理論を大域的理論に結びつけることが今後の課題である.2月に Morrow氏を招聘し議論した結果,整crystalline表現そのもののガロア・コホモロジーが,Frobenius付きのAinf表現の「基本完全列」を新たに導入することによって,(フィルトレーション付きの)BMSのコホモロジーと簡明な形で結びつけられることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正規交叉因子に特異性を持つp進perverse層の比較定理は前年度完成した.そのエタール側で証明の核となる正規交叉因子に特異性を持つlog perverse層の局所コホモロジーのpurityやlog perverse層の引き戻しのt完全性などの基本定理の証明を書き終えたが,perverse層やそのコホモロジーのlog局所系を用いた記述については執筆を終えられず予定より遅れている.一方,2016年4月のMatthew Morrow氏との議論をきっかけとして始めたBhatt-Morrow-Scholzeの整p進Hodge理論の係数理論についての研究については,Faltingsの整crystalline表現の理論についても,彼らの枠組みが非常にうまく機能し,彼らのAinfコホモロジーがde Rhamコホモロジーやcrystallineコホモロジーを捉える様子が係数付きでも観察されることを明らかにできた点は大きな収穫であった,また2017年2月の本科研費によるMorrow氏招聘の際に行ったvanishing cycles複体の研究については,定数係数の場合にMorrow氏が得ていた結果はde Rham Witt複体を用いた複雑なものであったため,整crysatlline表現係数への一般化は容易でないと当初予想していた.しかしHodge filtrationをAinfコホモロジーを用いて捉えるという新しい視点からのMorrow氏との議論を通して,vanishing cycles複体をAinfコホモロジーの視点から捉える非常に簡明な方法を発見できたことは,予想以上の進展であった.
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今後の研究の推進方策 |
正規交叉因子に特異性を持つcrystalline p進perverse層と対応する数論的D群のコホモロジーの比較定理に関する結果については,現在では有理係数の理論しか得られていない.整理論の数論的重要性に鑑み,整係数の理論も整備しつつ論文の執筆を続ける計画である.コホモロジーの次数が素数pより大きい場合の整p進コホモロジーについては,昨年度の研究で得られたAinfコホモロジーの係数の局所理論の大域版を確立する.Scholzeのpro-etale siteを用いる手法とFaltingsのsiteを用いる手法が考えられるが,後者の基礎理論について精力的に研究しているA.Abbes氏,M.Gros氏と本科研費を用いて定期的に議論する機会を持ちつつ研究を進める.また局所理論についてはMorrow氏とvanishing cycles複体の共同研究を進める.従来のsyntomicコホモロジーの理論ではvanishing cycles複体の整構造を完全に捉えきれないという問題があったが,昨年度のMorrow氏との共同研究により新しいAinfコホモロジーでは係数付きでも正確に整数構造が捉えられることが分かった.この視点からsyntomic複体とvanishing cycles複体の整構造のずれの理解を目指す.一昨年度L.Berger氏と共同で行ったLubin-Tate拡大の局所岩澤理論の形式群の局所モジュライ空間を用いた研究は,昨年度は中断してしまったが,今年度7月のBerger氏の来日を機に再開する予定である.この理論はAinfコホモロジー理論で用いられているBreuil-Kisin-Fargues加群の理論と密接に関連している.昨年度のAinfコホモロジーの研究で深めた同理論の理解を活用して研究を進める計画である.
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