研究課題
平成28年度は、前年度に製作した2個のウェッジド・ダブル・ウォラストンプリズムの実験室における光学性能試験および真空冷却耐久試験を行った。その結果、設計通りの光学性能が得られていること、真空冷却サイクルを繰り返しても剥がれ・反りなどの不具合を生じないことを確認した。その後、これらのプリズムを可視近赤外同時カメラHONIRに組み込み、かなた望遠鏡に装着して試験観測を行った。試験観測では、無偏光標準星、強偏光標準星を複数観測して、ワイヤグリッドや通常のウォラストンプリズムを用いたデータと詳細に比較した。その結果、可視・近赤外ともに機械偏光は約0.1%、消偏光度は可視域では40%程度であるが、波長が長くなるに従ってなめらかに消偏光度が減少し、1.5μm以上の近赤外域では3%以下となることが分かった。これは、これまで観測に用いていた通常のウォラストンプリズムとほぼ同じであり、精度の良い観測を行えることを確認した。さらに、新たな近赤外線検出器を導入するために国内企業(浜松ホトニクス)と共同で、InGaAs素子を用いた1280×1280画素の近赤外線検出器を開発した。開発した検出器は実験室での性能評価を経て、かなた望遠鏡に装着して試験観測を実施した。読み出し雑音が想定よりも3倍程度大きく不感領域もあるが、量子効率は80%と良好であり実用に耐えることが分かった。並行して、既存の観測装置HOWPolを用いたGRBの初期偏光観測を2件実施した。いずれも有意な偏光は検出できなかった。この他、活動銀河核、超新星の観測を実施した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していたウェッジド・ダブル・ウォラストンプリズムが予備品も含めて2個納入され、それらの実験室での基礎性能評価試験および真空冷却試験が無事に完了した。さらにそれをHONIRに組み込んで、かなた望遠鏡に装着して試験観測を行うことに成功し、製作したプリズムを用いた偏光観測性能を定量的に評価することができた。その結果、目標性能に達していることが分かり、本格観測に向けての準備を整えることができた。近赤外線検出器に関しては、浜松ホトニクスとの共同開発に成功し、1280×1280画素のInGaAs検出器を製作することができた。製作した検出器の性能は、読み出し雑音が想定よりも大きかったが、量子効率は要求通りで十分実用に耐えることが分かった。GRBの初期偏光観測には2回成功した。有意な偏光は検出できなかったが、過去のデータと合わせて統計的な議論をする上で貴重なデータを得た。以上を勘案して、おおむね順調に進展していると評価した。
今後は、試験を終えたウェッジド・ダブル・ウォラストンプリズムをHONIRに装着して、GRBの初期残光の可視近赤外同時偏光観測を実施していく。そのために、GRBアラートに自動対応する自動観測ソフトウェア、自動解析パイプラインの整備を行う。自動観測ソフトウェアはHOWPol用に開発して実際に運用しているシステムを改良することで対応する。自動解析パイプラインは既存のHONIRデータ解析パイプラインに偏光解析機能を追加する。また、平成28年度に開発したInGaAs近赤外検出器をHONIRに組み込んで、可視1チャンネル、近赤外2チャンネルの同時観測機能を実現する。こうしてアップグレードしたHONIRを用いて、GRB、活動銀河核の偏光観測を実施して、相対論的ジェットの磁場構造に迫る。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 6件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
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