研究課題/領域番号 |
15H02069
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
吉田 道利 国立天文台, ハワイ観測所, 教授 (90270446)
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研究分担者 |
川端 弘治 広島大学, 宇宙科学センター, 教授 (60372702)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光学赤外線天文学 / 偏光観測 / 高エネルギー天文学 / ガンマ線バースト |
研究実績の概要 |
2016年度に製作、基本試験を終えたウェッジド・ダブル・ウォラストンプリズムをかなた望遠鏡の可視赤外同時カメラHONIRに装着して、さらに試験観測を進めた。HONIRは2017年度当初にコリメーターレンズを一新しており、その改修を終えた状態で試験をしたところ、全波長域にわたって消偏光度が5%未満という優れた性能を有することが分かった。2017年半ばから、ウェッジド・ダブル・ウォラストンプリズムをHONIRの標準装着品として定常運用を開始し、活動銀河核ブレーザーの可視近赤外線同時偏光モニターを行った。こうして得られたデータを過去の観測結果と合わせて解析し、ブレーザーの偏光変動と光度変動、色変動の間の相関を調べた。その結果、ジェット成分が卓越するブレーザーでは、色が青くなり、明るくなるほど偏光度が増す傾向が見られた。一方、中心のブラックホール周りの降着円盤成分が卓越するブレーザーでは、明るくなるほど色が赤くなり、偏光度が減少する傾向が見られた。これらの結果は、ブレーザーの光度変化にどの成分が効いているのかを示している。ガンマ線バーストの偏光観測は2件実施したが、いずれも有意な偏光は検出できなかった。 また、2016年度に製作・試験した1280×1280画素のInGaAs近赤外検出器の試験結果をメーカーにフィードバックして改良版の検出器を製作し、これをかなた望遠鏡に装着して試験観測を実施した。この結果、全体的に量子効率が改善し、2016年度よりも良好な観測結果が得られることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウェッジド・ダブル・ウォラストンプリズムの性能評価は、HONIRのコリメーターレンズを交換することで画期的に進展し、可視光から近赤外線に至る波長域で、消偏光度が5%以下という良好な性能を達成できることが分かった。性能評価試験後は、実際にHONIRに装着して本格運用を開始することができた。そして、これを用いて活動銀河核ブレーザーの可視近赤外線同時偏光モニターを行い、これまでの結果と合わせて査読論文として発表するに至った。ガンマ線バーストの偏光観測は2件実施することができた。いずれも有意な偏光は検出できなかったが、残光初期の偏光観測結果としてデータ蓄積には貢献することができた。 InGaAs近赤外検出器の試作は成功し、広島大学かなた望遠鏡に装着した試験観測にも成功して、実際に天体画像を得ることができた。検出器の望遠鏡搭載時の性能確認も行い、量子効率、読み出し雑音などが、実験室での試験と同様であることが確認された。 以上の成果を判断して、当初計画通り、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
ウェッジド・ダブル・ウォラストンプリズムを装着した可視近赤外同時カメラHONIRを用いて、ガンマ線バーストの可視近赤外線同時偏光観測を行い、相対論的ジェットの磁場構造および放射機構の解明を試みる。強い偏光が検出された場合は、ウェッジド・ダブル・ウォラストンプリズムの一露出偏光機能を活かして、偏光の時間変動を追跡観測する。可視近赤外残光に偏光が検出されなかった場合は、上限値を算出して、ガンマ線バーストジェットの偏光特性を調べるデータとして活用する。 また、前年度に引き続き、活動銀河核ブレーザーの可視近赤外線同時偏光モニターを継続し、ブレーザージェットの偏光の波長依存性、時間変動、光度・色変化との相関などを調べ、統計的にジェット構造の解明を目指す。さらに、新星、X線連星、パルサーなど各種突発天体の偏光観測を実施して、偏光の観点から、これらの爆発現象の物理の解明を試みる。 InGaAs検出器試作をさらに進め、より低雑音(読み出し雑音10電子以下)の読み出しシステムを持った検出器を作成する。試作した検出器は、かなた望遠鏡に装着して試験観測を行う。
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