研究課題/領域番号 |
15H02073
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
川邊 良平 国立天文台, 電波研究部, 教授 (10195141)
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研究分担者 |
田村 陽一 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (10608764)
酒井 剛 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (20469604)
田中 邦彦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00534562)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 爆発的星形成銀河 / 巨大ブラックホール / ミリ波超伝導受信機 / ミリ波電波望遠鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、メキシコで最近運用を開始したLarge Millimeter Telescope (LMT;標高4600m)と日本の受信機技術を組み合わせ、単一鏡としては世界最高感度の波長2ミリ帯観測チャンネルの開拓を目標としている。既存の波長3ミリ波帯受信機と組み合わせて、これまで困難であった「ダストに覆われた爆発的星形成銀河(サブミリ波銀河)の赤方偏移の分光同定」を可能とし、現在サンプル数が極めて乏しい、赤方偏移が4-5を超えるような銀河の検出や回転量子数の高いCO分子輝線の観測を通して、ダストに埋もれた原始クエーサー候補の探査を目指している。 これまでに、波長2ミリ波帯の受信機の開発、超広帯域の分光システムの導入、リモートシステムの構築を行なってきた。2017年度には、これらの装置を組み上げ、全体システムの国内実験室での調整、メキシコへの輸送、およびLMT50mアンテナへの搭載、試験観測を実施した。実験室での評価試験では、受信機の超伝導素子への磁場印加や局部発信源パワー等の調整を行うことで、世界最高レベル(アルマスペック)の性能を実現できた。一方、分光計についても仕様通りの性能を実現し、リモート制御系についても開発は完了することができた。マサチューセッツ大学の技術者を交えた、LMTアンテナとほぼ同じ環境でのリモート制御やデータ取得試験にも成功した。一方、メキシコへの装置の輸送やアンテナへの設置に関しては、メキシコでの2度にわたる大地震(2017年9月、2018年2月)に起因して大きな影響があった。しかし、地震の影響がある程度収束した時期を見定めて、装置の輸送を実施した。また国内から派遣した人員へのリスクも十分回避して、本年3月上旬から、アンテナサイトでの装置の搭載、設置を実施し、天体の分光観測にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内での装置の開発、性能の実現、全体システムの評価試験は順調に進んだ。一方で、メキシコでの2度にわたる大地震(2017年9月、2018年2月)に起因して、計画推進には大きな影響がでた。特に、完成した装置の輸送時期と人員を派遣しての装置のアンテナへの設置、試験観測の時期については、当初計画から大幅に変更せざるをえなかった。それでも、メキシコのLMTを運用する国立研究所やLMT観測所の特別な配慮もあり、装置の輸送の遅れを挽回し、また本観測に必要な較正装置の輸送を前倒しで実行して、試験観測時間を3月に確保することが可能となった。これにより、LMT50m望遠鏡と組み合わせて分光試験観測を実施して、銀河中心方向の観測を行うことができた。一方、いくつかの不具合が見出された。LMT50mアンテナ内での性能評価に関しては、LMT50mグループから提供された光学系パラメータに間違いが見つかり、我々の受信機との光学系の結合に多少の問題が生じた(この不具合により観測効率が多少低下した)。この不具合は、受信機側の光学系の一部を改良すれば対処できることがわかった。既に、改良光学系の設計も終わり製作段階に入れる状態にある。また、受信機調整や受信信号の強度較正用の黒体チョッパーの回転用モータが輸送等で故障したことが判明した。予備品の購入はしていないので、新規購入をして交換することで対処する方針である。 上記のようにいくつかの不具合や、メキシコでの大地震による影響があったものの、概ね計画通りに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は以下を実施する予定である。 1)総合試験(継続):望遠鏡に搭載した受信機システムの調整を行い、実験室での評価試験で得られた性能へと追い込む。また、不具合の見つかった受信機調整や観測に不可欠なチョッパーの改修も行い受信機調整に活用できるようにする。改良光学系も製作して早急に取り付ける計画である。一方、周波数変調方式局部発信源の試験も行い、観測感度向上に役立てる(これらについては、本年6月を予定)。 2)試験観測(継続): 遠方星形成銀河の観測を行うためのOn-Off観測モード等の整備を行い、受信機システムの再調整後に試験観測を実施する。最終的に、LMT50m鏡との組み合わせでどのくらいの観測性能を実現しているかの評価を行う(本年6月を予定)。 3) 観測計画の立案と観測実施試験観測での観測性能評価に基づいて、本観測計画を立案する。本観測は、分光赤方偏移の分かっている遠方星形成銀河での一酸化炭素輝線の検出や、巨大ブラックホールをホストする遠方星形成銀河候補などの観測を実施する(本年11月以降~来年3月を予定)。 1)は、酒井(研究分担者)、田村(研究分担者)が中心となって実施する。2)については主に田中(研究分担者)や、研究協力者(東大理センターの廿日出助教)、が中心となって実施する。3)は、田村(研究分担者)、研究協力者(東大・河野教授や廿日出助教)、川邊(研究代表者)が中心となって進める計画である。本観測の成果は、マサチューセッツ大学やメキシコの国立研究所の共同研究者とも協力して早急に学術論文として仕上げる計画であり、また、アルマを使ったイメージング観測も推進する予定である。
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