研究課題
平成28年度前半は、すばる望遠鏡HSC戦略枠観測で取得されるデータを即時に解析し、突発天体候補を発見するためのシステムの開発を行なった。この目的のために、国立天文台ハワイ観測所に32コアをもつ計算機を4ノード導入し、突発天体解析パイプラインの実装を行った。また、解析された結果をブラウザで一覧するためのインターフェースを開発し、突発天体の性質をリアルタイムでチェックできる体制を整えた。このインターフェースは戦略枠観測の共同研究者が誰でもアクセスできるように公開している。平成28年度11月からは、HSCを用いた突発天体サーベイ観測を開始した。各月の新月付近で可視光g,r,i,z,yバンドの画像データを数日おきに繰り返し取得し、突発天体の検出を行った。その結果、平成29年3月までに、既に1000天体を超える突発天体候補が同定されている。この中には赤方偏移z=1を超えるIa型超新星、赤方偏移z=2付近の超高輝度超新星候補なども含まれており、これまでで最も深い突発天体サーベイの特徴が生かされたデータセットが得られつつある。この多色データから短時間変動を示す天体を選び出し、2天体に対してGemini望遠鏡による即時分光観測を実施した。これらの天体の素性については現在解析中である。また、サーベイの最中に、母銀河が特定しづらい、もしくは明らかな母銀河がいない突発天体が多く発見されたため、突発天体の位置と周りの銀河の位置・性質をもとに、母銀河を推定する手法の実装を行なった。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究計画は、(1)すばる望遠鏡HSC戦略枠観測による突発天体探査のためのリアルタイム解析システムの開発と、(2)戦略枠観測による突発天体探査の実行であった。課題(1)に関しては、データ解析のための専用計算機を国立天文台ハワイ観測所に導入し、突発天体をリアルタイムに検出・同定するためのパイプラインとウェブインターフェースの整備が完了した。パイプラインとウェブインターフェースは実際に平成28年11月から始まった戦略枠観測による突発天体探査で使用できているため、課題(1)は予定通り完了した。課題(2)の実際の突発天体探査も順調に進んでおり、これまで5ヶ月間の観測で既に1000 天体を超える突発天体候補が発見されている。少数ではあるものの、Gemini望遠鏡による短時間突発天体の即時分光にも成功しており、現在解析中である。本研究計画が注目する短時間突発天体の他にも、高赤方偏移のIa型超新星や超高輝度超新星が多数発見されており、それらの測光追観測や分光観測も精力的に行われている。また、予想していなかった母銀河がいない突発天体の種族も明らかとなり、それらの調査も開始している。以上より、計画全体も概ね順調に進んでいると判断している。
平成28年度に引き続き、すばる望遠鏡HSC戦略枠観測による突発天体探査を実行し、リアルタイムに短時間突発天体の検出を行う。平成29年度5月に一旦戦略枠の突発天体サーベイ観測は終了する。その後は、これまで取得されたデータを再度網羅的に解析することで、(1)大量の突発天体候補の中から短時間突発天体を同定し、(2)そのような天体の宇宙における発生率を推定する。(1)短時間突発天体の同定:HSCで発見される突発天体はほとんど分光観測を行うことができないため、まずは様々なタイプの超新星の光度曲線テンプレートを作成し、測光データを用いた超新星の分類方法を確立する。知られているタイプの超新星の光度曲線テンプレートで分類できない突発天体や、短時間の変動を示す突発天体に注目してサンプルを構築し、そのような天体の統計的な性質(明るさ、色、母銀河の特徴)を調査する。(2)発生率の推定:発生率の推定のためには、データ解析、突発天体検出パイプラインのスループットと、超新星分類の精度の正確な測定が必要となる。それらの測定のため、光度曲線テンプレートに基づいて擬似観測データを作成し、本データと擬似観測データを全く同じ手法で処理する。この処理を通して、これまで知られていない短時間突発天体の検出と発生頻度推定を目指すとともに、Ia型超新星、重力崩壊型超新星、超高輝度超新星などこれまで知られているタイプの超新星の頻度測定も行う。
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すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 7件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 13件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 9件、 招待講演 11件)
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