ガンマ線バーストのエネルギー輻射メカニズムを解明するためには、ガンマ線の偏光度観測が必須である。そのため、高精度のガンマ線バースト偏光度検出器の開発をアメリカ側と行ってきた。今年度は2種類のシンチレーターとMulti Pixel Photon Counter(MPPC)という新しい光デバイスを使ったミニコンプトンカメラを製作して、その基礎性能を調べると同時にMPPCの放射線耐性を調べた。 我々が製作したミニコンプトンカメラは2層構造になっており、第一層は1cmキューブのプラスチックシンチレーター4つとその周りを囲む8つのCsI(Tl)シンチレーター(1cmキューブ)でできている。また2層目はプラスチックシンチレーターの真下に4つのCsI(Tl)シンチレーターを置いている。それぞれのシンチレーターには6mm角のMPPCが取り付けられており、全てのシンチレーターから信号を読み出せるようになっている。そしてこの検出器の上方からプラスチックシンチレーターに60keVのガンマ線を照射し、コンプトン散乱のイベントを取得した。その結果、プラスチックシンチレーターのエネルギーデポジットを使って、どちらの方向からガンマ線が来たのか粗く知ることができることが分かった。またプラスチックシンチレーターとCsI(Tl)のコインシデンスを使えば、バックグランドを大きく落とせることが分かった。 もう一つ行った実験はMPPCの放射線耐性に関する実験である。MPPCは今まで宇宙で使用された実績がほとんど無いため、宇宙放射線でどの程度性能が劣化するのか調べておく必要がある。そのため、放射線医学総合研究所でプロトンの照射実験を行った。その結果、宇宙空間で数年使用した場合、MPPCのダークカレントが数千倍になることが分かった。そしてアニーリングなどの方法を駆使してもダークカレントはほとんど減らない事が分かった。その結果MPPCを使った衛星搭載用のコンプトンカメラの実用化は難しいことが分かった。
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