研究課題/領域番号 |
15H02086
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田島 宏康 名古屋大学, 太陽地球環境研究所, 教授 (80222107)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 放射線 / ガンマ線 / 宇宙線 |
研究実績の概要 |
銀河中心付近の暗黒物質探査においては、星間媒質と宇宙線の相互作用による拡散ガンマ線が主要なバックグラウンドとなる。これまでは、星間媒質の密度分布は、電波観測による原子状水素と一酸化炭素の密度分布から推測していたが、推測に用いる変換係数が環境に依存するため、別の測定による補正が必要となるなど、十分な精度や一様性を確保する上で問題が多かった。本研究では、マイクロ波観測衛星Planckの全天サーベイで得られたダストの熱放射、温度、光学的厚みから星間媒質の密度を系統的に導出する方法を検証した。宇宙線密度がほぼ一様と考えられる近傍のガス雲においては、拡散ガンマ線の放射強度は星間媒質の密度に比例すると考えられるため、その領域におけるPlanckの観測結果から推定される星間媒質の密度とフェルミ衛星の観測で得られた拡散ガンマ線の放射強度を比較することによってその推定精度を評価した。その結果、従来の方法より良い精度で星間媒質の密度を導出できることが検証できた。 並行して、次世代のガンマ線観測装置となるCherenkov Telescope Array (CTA)で使用する半導体光電子増倍素子(SiPM)の開発を推進した。SiPMでは、一つの光子の入射に対して複数の光子に対応する信号を出力するクロストークとよぶ現象があるが、クロストークによって入射光子数より大きな出力することで、光子数の少ないバックグラウンドをガンマ線シャワーの現象と間違えてしまうことが問題となる。したがって、クロストークを極力抑制することが課題となっているが、それによって光検出効率が下がってしまうため、最適化が必要となる。複数の製造業者の複数の仕様のSiPMの性能を測定した結果、SiPMの大きさにクロストークが依存することがわかり、6 mmのSiPMを単一のSiPMではなく、3 mmのSiPM 4個を並列接続するする方がクロストークを抑制できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、MBM、ペガサスおよびカメレオンと呼ばれる領域において、Planckの観測結果から推定される星間媒質の密度とフェルミ衛星の観測で得られた拡散ガンマ線の放射強度を比較した。その結果、Planckの観測結果から推定される星間媒質の密度は、拡散ガンマ線の放射強度との比例関係において、従来の方法より良い結果が得られた。ただし、比例係数がダスト温度に依存する結果も得られており、さらに広範なダスト温度領域における比例関係の検証が必要となっている。 CTAのためのSiPMの開発においては、浜松ホトニクス社とSensL社の複数の仕様のSiPMの光検出器とクロストークレートを測定した。また、当初は3 mmの素子が主流であったが、最近では6 mmの素子も製造されるようになったため、3 mmと6 mmの素子の性能比較も行った。(CTAでは、6 mmを単位として使用するため、3 mmの素子は2x2に配列し、並列に信号処理することで6 mmの素子と同等に扱う。) その結果、クロストークレートが素子の大きさに依存することが判明し、6 mmのSiPMを単一のSiPMではなく、3 mmのSiPM 4個を並列接続するする方がクロストークを抑制できることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に実施したPlanckの観測結果から推定される星間媒質の密度とフェルミ衛星の観測で得られた拡散ガンマ線の放射強度との比較で得られたダスト温度依存性を考慮した星間媒質の密度を、さらに広範なダスト温度領域において検証する。その結果得られた拡散ガンマ線のモデルを適用することで、未検出のガンマ線点源を探査し、新たに検出されたガンマ線点源のスペクトルと位置情報を追加して、拡散ガンマ線のモデルを更新する。 CTAのためのSiPMの開発においては、平成27年度の測定結果からクロストークレートが素子の大きさに依存することが判明し、6 mmのSiPMを単一のSiPMではなく、3 mmのSiPM 4個を並列接続するする方がクロストークを抑制できることがわかった。平成28年度は、素子の保護層の材質や厚さ、および素子の大きさを最適化することで、クロストークレートを低減する。この最適化に基づいて、プロトタイプ・カメラに使用するSiPMの仕様を決定し、プロトタイプに必要な数量を製造する。
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