研究課題/領域番号 |
15H02092
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
越智 敦彦 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (40335419)
|
研究分担者 |
片岡 洋介 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任助教 (20508379)
増渕 達也 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 助教 (20512148)
齋藤 智之 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任助教 (50749629)
川本 辰男 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 准教授 (80153021)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 素粒子実験 / LHC実験 / ATLAS実験 / 粒子測定技術 / MPGD / マイクロメガス / トリガ検出器 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突加速器であるLHC実験の今後のルミノシティアップグレードへ向けて、ミューオン飛跡検出とトリガ能力を格段に向上させるために導入される新たな検出器「マイクロメガス」を開発・生産・完成させ、物理成果への展開を目指すものである。平成28年度においては、交付申請書の研究実施計画の通り、主に以下の(1)-(4) の研究を実施した。 (1) 量産に向けた高抵抗薄膜の品質及び製造プロセスの研究: 本年度より、マイクロメガス検出器の心臓部品である高抵抗ストリップ薄膜の量産を開始した。5月に生産を開始したが、途中から抵抗の許容値を超えるものが生産されたため、一時生産を中止し、製造プロセス、及び素材変化の両面から品質向上のための研究を行った。この結果、電極パターンを形成するペーストの改良が必要であることを突き止め、10月以降に再開した生産では良質の抵抗薄膜が作られるようになった。 (2) 大強度放射線使用時の検出器特性変化に対する研究: 昨年度のγ線照射試験の結果を受けて、ATLAS40年分に相当するγ線を小型(10cm×10cm)のテスト検出器に照射する試験を行った結果、ガス増幅率の減少が見られ始めるなど、検出器の動作限界が見えてきた。一方で動作安定性やシリコンベースの残渣物の由来など、検出器特性の理解に対して今後の課題も明らかになった。 (3) 高抵抗薄膜の品質管理のための検査手法の確立とデータベースの構築: 抵抗薄膜の量産開始に伴って、400μm間隔の細線パターンの画像的確認、及び全面にわたる表面抵抗値マップを進め、結果をデータベース化している。 (4) トリガアルゴリズムの確立:今年度は、新しいハードウェアトリガアルゴリズムの開発を行い、そのアルゴリズムを用いた飛跡再構成効率や角度分解能の評価を行い、十分要求性能を満たすことを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度までの研究成果をもとにATLAS実験NSW制作に向けたマイクロメガス用抵抗フォイルの実機に向けた量産を開始した。昨年度までに制作した大型の試作フォイルは、合計で150枚ほどであったが、今年度は実機に向けて25種類、合計2000枚のフォイルを製作した。一方でこの過程で、試作時には想定なかった品質管理上の問題が多々発生し、本研究課題ではこれらの問題解決に努めた。第一に、抵抗フォイルの抵抗値が、生産の途中で大きく跳ね上がる問題が量産初期に発生した。この問題は、ATLAS NSW においては入射粒子の許容量に制限がかかる可能性があるため原因究明と対策のための研究を行い、最終的には抵抗ペーストの品質変化の問題であることを突き止め、新たにペーストを供給しなおすことで対処した。また、フォイルをCERNに送り出した後、読出し基板に接着する過程で抵抗パターンが一部剥がれる問題も発生したが、これについては、新たなペーストを用いた抵抗パターンのスクリーン印刷後の焼き付け温度に依存することを突き止め、本年度後半から対策を行った。これらの成果により、ほぼ全数の抵抗フォイルの生産を本年度中に行うことができた。 また同時に、神戸大学において生産されたフォイルの検査を進めている。検査は主にスキャナにより電子的に読み取られた抵抗パターンのチェックと各フォイルの抵抗値分布の測定であるが、これらを行うためのクリーンルーム、及び内部の設備の整備を行い、さらに得られた結果をデータベースにまとめている。この検査は来年度まで継続して行われる予定である。 以上より、今年度の研究は当初予想していなかった事態への対処も含まれたものの、抵抗フォイルの生産を完成させるなど、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、昨年度に引き続き量産フォイルのチェックとそのデータベース作成を進める必要がある。また、一部量産フォイルに対しては、CERNへ送った後のプロセスで剥離などの問題が生じていることから、この対策は引き続き行わねばならない。一方本年度の研究結果として新たに調製した抵抗ペーストについては、改めて放射線耐性などのチェックを行わねばならないため、平成29年度はCERN GIF++でのγ線照射試験や神戸大海事科学部での中性子照射試験なども行う。 一方で年度後半からは、CERNにおいて検出器として組み立てる作業や、その高度化のための研究や動作試験なども行っていく必要がある。さらに今後の検出器の動作を物理成果へ結び付けるために、信号読出しとトリガのためのトラック情報を高速に生成する方法の開発研究や、ATLAS のシステム内での信号シミュレーションなども引き続き行う。
|