研究課題/領域番号 |
15H02094
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川越 清以 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40183785)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | COMET実験 / ミューオン電子転換過程 / J-PARC / カロリメータ / ストローチューブ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、革新的な検出器を用いてミューオン-電子転換過程を探索し、素粒子標準模型 (SM) を超える物理 (BSM) を発見することである。その目的を達成するために鍵を握るのが、ストローチューブ飛跡検出器と電磁カロリメータの開発である。本年度はそれぞれの検出器の開発を並行して進め、さらに両検出器の試作機を組み合わせたシステムの動作試験を行った。 ストローチューブ飛跡検出器の開発では、検出器の最小構成単位であるストローチューブ 1 本の基礎特性を研究し、検出器の実機に使用できることを示した。さらに、実機に相当するサイズの試作機を製作し、東北大学電子光理学研究センターの電子ビームを用いて、ビーム試験による性能評価を行った。信号の読み出し等に課題は残ったものの、検出器として予想どおり動作させることに成功した。 電磁カロリメータの開発では、信号の波形情報を用いた粒子識別性能を検討するため、スイス・PSI 研究所の電子・ミューオン・荷電パイ中間子の混合ビームを用いて、初期試作機のビーム試験を行った。その結果、ある程度の粒子識別能力があることを示した。また並行して、電磁カロリメータの検出器実機を想定した試作機を設計・製作した。特に、アバランシェ・フォトダイオード光検出器 (APD) の大型化、検出器モジュールのラッピング方法、読み出し電子回路、真空内での動作、等の開発項目を重点的に研究した。東北大学電子光理学研究センターの電子ビームを用いてビーム試験を行い、その試作機ではエネルギー分解能が向上することを示した。同時に、ストローチューブ飛跡検出器と組み合わせて、検出器システムとして動作させることに成功した。検出器システムの実機設計・開発には課題は残ったものの、初期段階の開発としては成功したと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、ストローチューブ飛跡検出器と電磁カロリメータの開発において、大きな開発要素を重点的に研究し、課題をクリアーすることとした。ストローチューブ飛跡検出器の開発では、検出器実機に使用する最小構成要素の仕様を確定させることが出来た。さらに、検出器実機サイズの試作機を製作し、二度のビーム試験により、動作させることに成功した。電磁カロリメータの開発では、初期試作器の粒子識別能力をビーム試験で評価した。さらに、エネルギー分解能の向上を目指して、APD の大型化を含めたモジュール構造を研究し、ビーム試験により結果を示すことが出来た。両検出器を組み合わせたシステムも初めて動作させることに成功した。本研究計画の初年度としては、順調な滑り出しである。本年度の研究で得られた知見を生かして、残された課題を克服すべく、次年度の研究計画の方針をより具体的に建てることが出来るようになったことも、順調な進展と評価する理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に検出器試作器のビーム試験で明らかになった開発要素を詳細に研究して、次期試作機を開発し、ビーム試験を行う。それぞれの検出器の開発を並行して推進し、試作機を組み合わせて検出器システムを完成させ、動作試験を行う。検出器システムを動作させるため、読み出し電子回路・データ収集システム・電源等の開発も行う。 ストローチューブ飛跡検出器では、特に読み出し電子回路、実機サイズの次期試作機の製作、真空中での動作試験と性能評価に研究の重点を置き、実機建設に向けてすべての開発要素を洗い出す計画である。電磁カロリメータでは、前試作機のビーム試験で明らかになった開発要素を盛り込んだ、次期試作機を開発する。LED を用いた較正、APD の較正、検出器下流側に配置する前置増幅回路・波形デジタイザー・トリガー回路の改良、電源コントロール・温度計測定システムの開発に重点を置く。 それぞれの次期試作機を組み合わせて、検出器システムとして動作させるため、本実験を想定したデータ収集システムの開発を進める。スイス・CERN 研究所の CMS 実験が開発した FC7 ボードを利用し、検出器の読み出し回路・トリガー回路を mTCA 規格を用いたハードウェアを開発する。さらに、スイス・PSI 研究所が開発した MIDAS をベースとして、データ収集システムと電源等の制御系を統一化したシステムとする計画である。 次年度内に両検出器とデータ収集システムを組み合わせて動作させ、電子ビームを用いたビーム試験を行う。ビーム試験でマイナーな開発要素をすべて洗い出し、実機の設計を完了させる。実機建設で開始できる部分は開始する計画である。
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