研究課題
本研究の目的は、茨城県東海村の J-PARC 加速器・ハドロン実験施設で準備中である COMET 実験において、現代的・革新的な検出器を用いてミューオン-電子転換過程を探索し、素粒子標準模型 (SM) を超える物理 (BSM) を発見することである。実験技術面では、検出器全体を構成するストローチューブ飛跡検出器と電磁カロリメータの開発が重要である。本年度は、両検出器のビーム試験データの解析による性能評価、及び、ビーム試験で得られた開発要素を重点的に研究した。ストローチューブ飛跡検出器の開発では、検出器の前方・後方にシンチレーションファイバー検出器を配置し、全ての検出器を真空中で動作させたビーム試験で取得したデータを用いて、性能評価を行った。データ解析は最終結果を提出する目前であるが、想定する混合ガスを用いて、予想される XT 曲線と期待する 150 um 以下の位置分解能を得ることができた。読み出し・波形記録回路である ROESTI の較正手法を研究し、1 nsec 以下の時間分解能を達成できる見通しが立った。電磁カロリメータの開発では、APD 光検出器部・前置増幅回路を改良し、試作機を用いて行ったビーム試験のデータ解析を進めた。特に、ROESTI と同様に波形記録である EROS で取得した波形を用い、先進的な波形解析を導入することにより、エネルギー分解能・位置分解能・時間分解能で実機に要求する性能を満たすことを示した。ハードウェア面では、実機製作に向けた改良点を洗い出し、APD 光検出器部・前置増幅回路の最終デザインをほぼ終了させた。また、検出器の真空部と大気部を分けるフィードスルー基板もデザインを改良した。実機製作に向けて目処が立ったと言える。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究計画は、ストローチューブ飛跡検出器・電磁カロリメータの両検出器試作機の性能評価、及び、そこから得られた開発要素を最終設計へ反映させることを重点課題とした。性能評価では、実機のオペレーションを想定して真空中で検出器試作機を動作させて行ったビーム試験のデータを用いた。波形解析を駆使することによるデータ解析と性能評価により、両検出器ともに期待通りの結果を示しており、実機の要求性能を満たすことを示した。最終結果を得る目前の状態である。また、その過程で得られた開発要素・改良点を具体化し、検出器各部、及び、電子回路に重要な改良点を見つけることができた。試作機が製作可能なものは製作して実験室で試験することにより、また、デザイン上取り込むものは最終デザインへ反映させることにより、今年度でほぼ完了した状態となり、実機製作に向けて検出器開発は概ね順調に進展した。
来年度は、今年度に残った改良点を最終デザインへ反映させて開発を完了し、実機製作を開始する計画である。ストローチューブ飛跡検出器では、検出器主要部を構成するストローチューブ自体を筐体に固定するため、筐体の加工手法と精度に課題があることが分かっている。技術選定は進行中であり、最終的に選定した技術を用いて筐体の実機製作を行う。多数用いるストローチューブ自体の製作・検査は完了している。両端に電極を設置する作業を予定している。その後、筐体へ組み込む。電磁カロリメータでは、APD 光検出器部・前置増幅回路・波形記録回路・フィードスルー基板の各部において、最終版を用いた試作機の性能試験を行う。実験室での試験により性能評価を完了させ、実機製作を開始する。両検出器に共通する波形記録回路 (ROESTI 及び EROS) では、SFP の耐放射線性に問題があった。欧州合同原子核研究機構 (CERN) で高放射線環境で動作する SFP の開発が進行していることもあり、その SFP を試験するためにコンタクトを続けてきた。入手予定は目処が立っており、波形記録回路との整合性・要求性能を確認して、導入する予定である。これらの要素を完成させ、波形記録回路の実機製作を行う。
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PoS EPS-HEP2017
巻: 314 ページ: 800
https://doi.org/10.22323/1.314.0800
巻: 314 ページ: 524
https://doi.org/10.22323/1.314.0524