本研究では、スピン緩和が完全に抑制される永久スピン旋回状態の物理とそのデバイス応用を目指す。最終年度は、光励起による閉じ込め効果を用いることで極めて長いスピン緩和時間を実現すると共に、スピン拡散とスピンドリフト運動を同時に活用した新たなスピン軌道相互作用検出法を確立した。さらに、国際共同研究により永久スピン旋回状態が最も安定化する結晶構造を理論的に突き止めた。これは永久スピン旋回状態のデバイス応用に向けて大きな指針となり得る。細線構造を用いた電気的なスピン軌道相互作用係数の決定法を確立し、ゲート制御によるスピンナノデバイスへの基盤技術を確立した。この様に「ヘリカルスピントロニクス」ともいうべき新たな学理の構築に資する成果を挙げることができた。 具体的な研究成果は、(1)光励起によって生成された疑1次元的なポテンシャル構造により12ナノ秒を超える長いスピン緩和時間が得られることを明らかにした。本手法によりスピン緩和を閉じ込め効果により抑制しながら自由に電子の閉じ込め構造を光形成することができる。(2)GaAsおよびInGaAs量子井戸を用いてスピン拡散及びドリフト運動が生み出す有効磁場を高精度に制御・検出する手法を確立しスピン軌道相互作用の強さを求める新たな手法を確立した。本手法は室温でも検出できるため実デバイスの有効磁場を求める手段となり得る。(3)ドリフト拡散方程式からIII-V族半導体量子構造において最も安定な永久スピン旋回状態を取り得る結晶構造を理論的に明らかにした。225面というこれまで全く研究が進められていない結晶方向が最も安定であることを初めて突き止めた。これはウェリントン大学との国際共同研究である(4)IBMチューリッヒ研究所と共にスピン拡散運動により、これまで物質固有の係数と考えられてきた、スピン緩和の異方性が制御できる事を世界に先駆けて示した。
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