研究課題
1; これまでに開発を行ってきた単一サイクル6 fs光源の、シミュレーションによる波形解析を行い、パルス波形の決定要因を調べた。その結果から、パルス波形整形、安定化を進め、簡便な分光利用を可能にした。2; 上記光源(測定に用いたのは7 fs)を用いて、有機伝導体、遷移金属酸化物の新規試料の光強電場効果の探索を行った。a) 擬一次元有機伝導体 (TMTTF)_2AsF_6において、反射端の光電場誘起変化を、ローレンツモデルを用いて解析し、動的局在効果は、電子温度の上昇よりも遥かに速い約20fsの時間スケールで立ち上がること、電荷ギャップのエネルギーを反映する周期20 fsの振動を伴なうこと、を明らかにした。また理論解析によって、このωpの減少や時間軸振動には、電子相関の強さが本質的な効果を及ぼしていることを明らかにした(Phys. Rev. B 受理済、arXiv:1603.08374)。b) 電荷グラス状態を示すθ-(ET)_2CsZn(SCN)_4においても、同様に実験、解析(ただし拡張ドルーデモデルを使用)を行い、移動積分の減少が約40 fsという短い時間で緩和することを明らかにした。この結果は、上記の(TMTTF)_2AsF_6においては、~ps程度も持続するのとは大きく異なる。c) 遷移金属酸化物V_2O_3の実験も開始した。3; 強い振動電場を印加した後の2次元拡張ハバード・モデルの電子相関とフロケ理論の高周波展開による相互作用変調の結果を比較し、後者がどれほど前者を再現するか検討した。4; 一次元電荷秩序系における光誘起電荷秩序融解について理論的に解析を行った。格子の振動周波数の大小により、ソリトンの運動による機構とフォノンの生成によるソリトンのバンド内緩和の二つの融解機構が存在することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
1; キャリアエンベロープ位相を固定した6 fs(1.3サイクル)パルスを、固体の分光測定へ適用した例は世界にもほとんど例がない。本研究では、パルスの伝播や、自己位相変調効果によるスペクトルの広帯域化、圧縮などのシミュレーションに基づいた分析により波形や安定度の支配要因を探り、分光応用が可能な高安定光源を実現した。今後この光源を駆使することによって、固体中の電子のコヒーレント現象の探索が展開できる。2; 本研究では、上記光源を駆使することによって、最近この分野で注目されている光強電場効果(Nature commun. 5, 5528(2014))の研究をさらに推進し、移動積分の減少を、より直接観測できる方法(プラズマ反射端の変化)を見出した(Phys. Rev. B 受理済、arXiv:1603.08374)。3; さらに新規物質(電荷グラス物質、遷移金属酸化物)への展開を図っており、それぞれの物質に特徴的な現象を見出している。4; フロケ理論の高周波展開による相互作用変調は、遍歴電子モデルの過渡電子相関に対する励起光の偏光依存性をかなり再現する見込みを得た。5; 一次元量子多体系の時間発展状態を有限サイズ効果の影響なく解析することのできるiTEBD法とよばれる数値計算手法によるコードを開発した。これにより、一次元電荷秩序系の秩序融解過程を高い数値計算精度で解析することが初めて可能になった。
1; 典型的なモット絶縁体である、V_2O_3において、移動積分の減少による金属絶縁体転移の「光電場によるバンド幅制御」の可能性を探る。2; キャリアエンベロープ位相を変化させ、位相敏感な多電子光応答を探索する。3; テラヘルツ強電場と組み合わせ、低周波―高周波の複合強電場による新奇応答を探索する。4; 強い振動電場を印加した後の遍歴電子モデルの電子相関に対するパルス波形の効果を理論的に計算する。5; 一次元量子多体系におけるパルス励起と連続光励起との類似と相違、ならびに強相関電子模型の動的局在現象における電子相関効果について、数値的に詳細に解析する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 16件、 招待講演 13件) 備考 (3件)
Phys. Rev. B
巻: - ページ: 掲載確定
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