研究課題/領域番号 |
15H02100
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岩井 伸一郎 東北大学, 理学研究科, 教授 (60356524)
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研究分担者 |
石原 純夫 東北大学, 理学研究科, 教授 (30292262)
米満 賢治 中央大学, 理工学部, 教授 (60270823)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 光誘起相転移 / 超高速現象 / 有機伝導体 / 遷移金属酸化物 |
研究実績の概要 |
1)単一サイクル光源を用い、擬一次元有機伝導体 (TMTTF)2AsF6において、動的局在効果に関係する電荷局在のダイナミクスを明らかにした(PRB93,165126(2016))。 2) 二次元有機伝導体(α-(ET)2I3)における電荷局在(Nature commun. 2014)の機構を解明するために、7 fsパルスの偏光制御を行った。a) 過渡的な電荷局在は、a軸方向に平行な1010型の電荷秩序に類似であること、ii) この電荷局在は、a軸に垂直偏光の励起により形成されることを明らかにした。理論計算との比較から、二次元三角格子上の移動積分とクーロン反発のネットワークの重要性が分かった (submitted to PRL.)。 3)有機ダイマー三角格子金属(k-(h-ET)2Cu[N(CN)2]Br)において、10MV/cmの強励起に対してa)反射ピークの巨大シフトや先鋭化を発見し、b)この効果がモット転移の相図を反映した異常を明らかにした。また別のダイマー格子系の電場効果を調べ、光測定の準備を行った(PRB95, 085149(2017))。 4)2次元拡張ハバード・モデルに対する振動電場印加の効果を、α-(ET)2I3と同じ空間反転対称性のもつものと、仮想的な鏡映対称性をもつものについて計算し、サイト間クーロン相互作用がもたらす電荷秩序に、電子のホッピングの対称性が絡んでいることを示した(JPSJ 86, 024711(2017))。 5) 一次元多体スピン系と一次元ハバード模型における光励起状態について解析を行った。スピン間相互作用によりラビ振動が大きく変化すること、CW励起による動的局在現象が電子間相互作用や電子密度に敏感に変化することを見出し、その機構を明らかにした (PRB94, 115152(2016))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)キャリアエンベロープ位相を固定した7 fsパルスの偏光制御を分光測定へ適用した例は世界にも例がない。この技術は、CaF2のワイアーグリッド偏光子対によって実現したものであり、ポンププローブ測定における励起光、プローブ光それぞれの強度と偏光方向を独立に変えられる。この測定技術と理論解析によって三角格子二次元有機伝導体(α-(ET)2I3)における電荷局在(,Nature commun. 2014)の機構を解明できた(Phys. Rev. Lett. 投稿中)。さらに、今後この変更制御光源を駆使することによって、固体中の電子のコヒーレント現象の探索が展開できる。 2)有機ダイマーモット絶縁体に隣接する金属(k-(h-ET)2Cu[N(CN)2]Br)において、10MV/cmの強励起に対して射ピークの顕著なシフトや先鋭化など、通常の半導体では考えられない劇的な非線形応答を初めて見出した。その起源は現段階では明らかではないが、モット転移の相図を反映した温度依存性を示すことから、電子相関に起因する新たな光強電場効果を実験的に見出したと言える。 3)遷移金属酸化物V2O3は典型的なモット絶縁体物質であるが、電子構造が福雑なこともありこれまで光誘起相転移の研究があまりなされてこなかったが、近年になり国際的に注目されている研究対象である。この時間分解能でのアプローチは例がなく独自性が高い。 4)パルス波照射後の電子状態変化のうち、フロケ理論の高周波数展開による有効模型と整合するもの/しないもの、照射前の模型を熱化したものと整合するもの/しないものを整理することで、秩序の変調の系統性について見込みを得た。 5) 昨年度開発した一次元量子多体系の時間発展状態の解析法であるiTEBD法を用いることで、一次元多体系のコヒーレント状態の解析が有限サイズ効果の影響無く高い精度で可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
1)これまでに開発を行ってきた単一サイクル6 fs強電場光源の威力をより有効に生かすために、今後は測定法の拡張を行う。29年度は、6 fs近赤外で誘起した状態の中赤外(3-10μm)スペクトルを測定するためにプローブ光発生を行う。位相整合条件や群速度分散の最適化により、動的局在などの短寿命の強電場効果をより直接的に捉えるために必要な< 50 fsの中赤外光源を発生させる。 2) k-(h-ET)2Cu[N(CN)2]Br において観測した顕著な強電場効果の起源を、温度依存性や励起強度依存性の測定および理論計算との比較から明らかにする。さらに、構築予定の中赤外プローブ光を用いて、ハバードバンドやドルーデ応答の変化を調べ、電荷秩序系物質で観測された電荷局在効果と、上記のダイマーバンドの劇的なスペクトル変化との関係をしらべ、電荷秩序系との違いを明らかにする。 3)V2O3の金属相において、より強い光電場下において動的局在の可能性を調べるほか、絶縁相における光モット転移を探索する。 4)強い振動電場を印加した後の遍歴電子モデルの電子相関に対する最大電場の効果を、異なるバンド構造について、理論的に計算し解析する。 5)ダイマー自由度も有するハバード模型ならびにスピン電荷結合系のパルス励起・連続光励起による過渡現象について数値的に詳細に解析する。
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