研究課題
協同相互作用が働く固体物質内での構造変化を活用することが光マルチフェロイック・スピンスイッチをはじめとする高速光相スイッチ材料や光エネルギー変換材料開発に必要不可欠である。本研究では、研究代表者らのチームが培ってきた動的電子線回折と振動分光観測技術を駆使し、この隠れた構造秩序状態が有機結晶での光誘起相転移において果たす役割を、原子スケールかつ原子振動周期の精度で実証し、非平衡状態にある物質の機能と隠れた秩序との関連解明へ向けた挑戦を行うことを目的としている。この目的達成のために2015年度は、まず研究代表者らのチームで培ってきた動的電子線回折試験装置を基盤として、パルス幅0.3psの電子線回折観測装置の開発を行った。特に試料の光応答の温度変化を観測するための温度調整装置を備品として購入し、温度可変型試料ホルダーの作製を集中的に行った。装置は予定通り無事立ち上げを終了し、現在これを活用した測定を開始している。また本装置や準備研究で共同研究利用を実施してきた装置(ドイツ・ハンブルクにある、自由電子レーザー研究所のR.J.D.Miller教授のグループ)を用いて、光励起で高感度・超高速に光学特性や非線形光学特性の変化を示す具体的な物質における隠れた秩序状態の探索も開始した。中でもMe4P[Pt(dmit)2]2錯体結晶では、薄膜結晶の透過率の超高速変調と電子線回折の比較測定に世界で初めて成功し、光誘起状態特有の構造をさぐる手段としての本装置の信頼性を世界から高く評価され、Science誌(350(2015)1051)に掲載されるに至った。さらに、光メモリ材料として注目されているGe2Sb2Te5においても、光励起構造変化過程の詳細解析に成功し、やはり高く評価されScientific Report誌(5 (2015)13530)に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
安定な物質構造に基づく従来型の材料開拓が限界に達しつつある今、協同相互作用が働く固体物質内での構造変化を活用することが光マルチフェロイック・スピンスイッチをはじめとする高速光相スイッチ材料や光エネルギー変換材料開発に必要不可欠である。このような、光刺激に協同的応答を示す物質群(光誘起協同現象・相転移系)では、基底状態とは異なる光励起状態特有の構造秩序(隠れた秩序状態;Hidden State)の存在が重要であると予測されている。本研究では、研究代表者らのチームが培ってきた、動的電子線回折と分光観測技術を駆使し、この隠れた構造秩序状態が光誘起相転移において果たす役割を、原子スケールかつ原子振動周期の精度で実証し、非平衡状態にある物質の機能と隠れた秩序との関連解明へ向けた挑戦を行うことを目的としている。本研究の目的に沿って立ち上げた装置や、準備研究用の装置で、光励起で高感度・超高速に光学特性や非線形光学特性の変化を示す具体的な隠れた秩序状態の探索を、いくつかの物質で達成することができた。中でもMe4P[Pt(dmit)2]2錯体結晶では、薄膜結晶の透過率の超高速変調と電子線回折の比較測定に世界で初めて成功し、光誘起状態特有の構造をさぐる手段としての本装置の信頼性を世界から高く評価され、Science誌(350(2015)1051)に掲載されるに至った。さらに、光メモリ材料として注目されているGe2Sb2Te5においても、光励起構造変化過程の詳細解析に成功し、その知見は超高速応答型光メモリー材料への道を開くものとして高く評価されScientific Report誌(5 (2015)13530)に掲載された。このような成果達成状況から区分(1)を選択した。
①2015年度にパルス幅0.3psの電子線回折観測装置に組み込み設置した、試料光応答の温度変化を観測するための温度調整装置を活用し、引き続き当初目標に沿って、具体的な有機物質における隠れた秩序状態の探索を行う。特にEDO-TTF誘導体の混晶系において、その混晶比率で相転移の性格が電荷秩序型とパイエルス転移型を入れ替わる物質系に注目し、相転移の特性の変化が、光誘起相転移のダイナミクス、構成分子の構造変化にどのような影響を与えるのか詳細な検討に着手する。これにより光誘起構造相転移と相変化特性の関連を明らかにする。②目的に記した有機結晶に加えて、同様に興味深い電子状態転移を伴う無機材料の観測にも成果を拡大するべく研究に着手する。特に結晶表面でトポロジカルギャップが生ずることで知られているBi2Te3等において、そのバンドギャップに対する光誘起効果と構造変化の関連の検討を行い、光による電子ギャップ制御の可能性を検討する。またCo酸化物などの強誘電体に着目して、その光誘起非線形光学特性変化と構造変化の関連解明にも着手する。③装置の光源であるフェムト秒パルスレーザーの安定性が観測データの向上のために不可欠であることが明らかとなったため、レーザー結晶や高調波発生用非線形光学結晶や周辺光学系の安定化のための改良作業にも着手する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
Journal of vacuum society of Japan
巻: 2 ページ: 40-51
Science
巻: 350 ページ: 1501-1505
10.1126/science.aab3480
Scientific Report
巻: 5 ページ: 13530:1 - 10
10.1038/srep13530
http://www.titech.ac.jp/news/2015/032959.html