研究課題/領域番号 |
15H02103
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
腰原 伸也 東京工業大学, 理学院, 教授 (10192056)
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研究分担者 |
中村 一隆 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (20302979)
羽田 真毅 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (70636365)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光誘起相転移 / 光誘起協同現象 / 電子線回折 / 超高速ダイナミクス / 隠れた秩序状態 / 非平衡状態 |
研究実績の概要 |
協同相互作用が働く固体物質内での構造変化の知見が光マルチフェロイック・スピンスイッチ等の高速光相スイッチ材料や光エネルギー変換材料開発に必要不可欠である。本研究では、研究代表者らが培ってきた動的電子線回折と振動分光観測技術を駆使し、光励起状態特有の(基底状態では隠れた)構造秩序が有機結晶での光誘起相転移において果たす役割を実証し、非平衡状態にある物質の機能と隠れた秩序との関連解明を目的としている。 この目的達成のために2016年度前半は、2015年度に引き続き、2015年度に購入した試料冷却用ホルダーをパルス幅0.3psの電子線回折観測装置に導入する作業を集中的に行い、無事完了した。これを活用し、結晶表面でトポロジカルギャップが生ずることで知られているBi2Te3等において、光による電子ギャップ制御に成功し高く評価されJ.Chem.Phys.誌(145 (2016) 024504)に掲載された(前倒し予算でオープンアクセス化)。 また電子線観測用試料の準備と観測面においても、有機材料における光誘起超高速構造変化の結果が昨年に引き続いて高く評価され、スウェーデン科学アカデミー物理部門誌(Physica Scripta)の招待論文(92 (2017) 034005)やPhys.Rev.誌(93 (2016)195130)に掲載された。 さらに.無機材料においても、遷移金属酸化物(無機)強相関誘電体における強誘電性超高速光制御という想定外の成果を世界に先駆け達成し、論文を投稿するとともに動的構造観測の準備に着手した。さらに、研究計画前倒しによるレーザー光源安定化にも成功し、微弱ゆえに観測困難とされて来た遷移金属酸化物の超高速構造変化、とりわけ酸素原子など軽元素の動きを捉える準備実験に挑戦を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
安定な物質構造に基づく従来型の材料開拓が限界に達しつつある今、協同相互作用が働く固体物質内での構造変化を活用することが光マルチフェロイック・スピンスイッチをはじめとする高速光相スイッチ材料や光エネルギー変換材料開発に必要不可欠である。このような物質群(光誘起協同現象・相転移系)では、基底状態とは異なる光励起状態特有の構造秩序(隠れた秩序状態)の存在が重要であると予測されている。本研究では、この隠れた構造秩序状態が、有機結晶において果たす役割を、原子スケールかつ原子振動周期の精度で実証し、物質の機能と隠れた秩序との関連解明に挑戦することを目的としている。 本研究の目的に沿って立ち上げた装置や、準備研究用の装置の活用で、光励起で高感度・超高速に光学特性や非線形光学特性の変化を示す具体的な隠れた秩序状態を、当初計画前倒しの形で各種の有機結晶で確認することに成功した。特に有期結晶に関する研究結果は、昨年のScience誌に続き、スウェーデン科学アカデミー物理部門誌の招待論文(Physica Scripta 92 (2017) 034005)として掲載されるに至った。 さらに無機結晶に関しても、当初計画を遥かに超える形で、2015年の光メモリ材料に続き、2016年度にはトポロジカル絶縁体Bi2Te3における電子ギャップ光制御に初めて成功し、論文が掲載された(J.Chem.Phys. 145 (2016) 024504)。加えてCo酸化物(無機)強相関誘電体における強誘電性超高速光制御という想定外の成果を世界に先駆け達成し、論文を投稿した。加えてレーザー光源安定化の前倒し達成によって、回折の弱さゆえに観測不可能と考えられてきたCo酸化物などの動的構造観測への挑戦という想定外の拡張研究にも着手することが出来た。このような成果達成状況から区分(1)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
①2015年度にパルス幅0.3psの電子線回折観測装置に組み込み設置した、試料光応答の温度変化を観測するための温度調整装置を活用し、引き続き当初目標に沿って、具体的な有機物質における隠れた秩序状態の探索を行う。特に現在進行中のEDO-TTF誘導体の混晶系において、その混晶比率で相転移の性格が電荷秩序型とパイエルス転移型を入れ替わる物質系に注目し、相転移の特性の変化が、光誘起相転移のダイナミクス、構成分子の構造変化にどのような影響を与えるのか研究が進行中であり論文準備に着手する。これにより光誘起構造相転移と相変化特性の関連を明らかにする。 ②当初目的で想定した有機結晶系に加えて、共同的水素結合、π電子軌道変化(さらにはスピン状態転移)と構造転移が強く結合した光応答を示すことが予備実験で明らかとなりつつある有期強誘電錯体[H-dppz][Hca] (dppz = 2,3-di(2-pyridinyl)pyrazine, Hca- = chloranilate)等について、構造観測が可能か検討する準備研究に着手する。 ③目的に記した有機結晶に加えて、無機材料での成果を大幅に拡大するべく、Co酸化物などの遷移金属酸化物(強相関系)強誘電体に着目して、電子線回折を用いた超高速光誘起構造変化の観測に本格的に着手する。特に2016年度に前倒しで達成したレーザー光源の安定化のメリットを活用し、微弱な超格子回折パターンの動的変化の観測に挑戦を開始する。そして光誘起非線形光学特性変化と構造変化の関連解明にまい進する。
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