研究課題/領域番号 |
15H02105
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 隆 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 教授 (00142919)
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研究分担者 |
佐藤 宇史 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10361065)
相馬 清吾 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 准教授 (20431489)
中山 耕輔 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 助教 (40583547)
菅原 克明 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (70547306)
福谷 圭祐 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 助教 (10706021)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 物性実験 / 光電子分光 / トポロジカル絶縁体 / グラフェン / 高温超伝導 |
研究実績の概要 |
計画初年度である27年度は、多様な量子物質相の創発を目的とした薄膜ハイブリッドの研究を推進するための基盤設備として、スピン分解高分解能光電子分光装置の改良と、各種高機能物質の薄膜MBE装置の高度化、薄膜試料を評価するための装置の整備、それらを用いた単相物質のMBE成長と、その高分解能ARPES、また薄膜ハイブリッドの予備的な実験を行った。具体的には、現行のスピン分解光電子分光装置において光電子イメージの取得速度を向上させるため、電子検出システムのCCDカメラとネットワーク及び電子レンズシステムの改良などを行い、エネルギー・角度分解能の向上に成功した。薄膜ハイブリッドの母材料の高品質化のため、「 グラフェン作成槽」「超伝導薄膜MBE槽」「トポロジカル絶縁体薄膜MBE槽」「ラシュバ・強磁性金属蒸着槽」の4つの薄膜作成槽において、各種試料の成長基板に適した加熱を行う通電加熱機構とスパッタ・アニール機構を製作・設置、分子線ビームの質を向上させる各元素専用の蒸着源の製作し、膜厚計の設置・調整を行った。これらの装置を用い、トポロジカル絶縁体薄膜、原子層遷移金属ダイカルコゲナイド、単層および多層のグラフェンと関連物質、原子層鉄系高温超伝導薄膜などの作成を行い、その高分解能ARPES実験を行った。その結果、原子層FeSe薄膜や、二層グラフェン層間化合物C6CaC6における超伝導の発現や、単層1T-T2Se2におけるCDW転移の観測に成功した。また、鉄とタングステンの接合界面にディラック電子を発生させ、そのディラック電子に巨大な質量を与えることに成功した。さらに、新たな量子物質相の探索として、多重ヘテロ構造超伝導物質Cux(PbSe)5(Bi2Se3)6における2次元フェルミ面の観測、新型ワイル半金属NbPのフェルミアークの観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
27年度計画では、本格的な薄膜ハイブリッドの電子構造研究を見据え、その基盤実験装置の整備・改良と、薄膜作成技術の高度化が主たる研究内容であり、それらは順調に進んできたといえる。その中で、薄膜を極限にまで薄くした系、すなわち原子層超薄膜において特筆すべき成果が二つ得られた。一つは、原子層FeSe超薄膜における超伝導ギャップの観測である。2008年に発見されたた鉄系高温超伝導体は、バルク結晶において最高で55 K程度の超伝導転移温度が報告されているが、原子層超薄膜においてはそのTcを凌駕する可能性が指摘されてきた。本研究では、単層FeSe超薄膜の作成に成功し、60 Kを超える高温超伝導を検証することに成功した。さらに、これまで超伝導が報告されてこなかった多層FeSe超薄膜においても、アルカリ金属を蒸着して母物質のフェルミオロジーを制御することで、多層において世界で初めて超伝導を発現させることに成功した。これらの成果により鉄系超伝導体を利用したナノ超伝導デバイスの素子開発が急速に進展すると期待される。 もう一つの特筆すべき成果は、グラフェンの超伝導化である。シリコンカーバイド(SiC)上に高品質の2層グラフェンを作製し、グラフェンの層間にカルシウム原子を規則的に挿入することで、二層グラフェン層間化合物C6CaC6の原子層超薄膜の作製を行った。原子層超薄膜の本来の伝導特性を観測するために、マイクロ4端子法によりC6CaC6試料の低温における電気伝導度を測定したところ、この超薄膜物質が超伝導転移温度Tc=4 K(onset)の新型超伝導体であることを見出した。。本成果は、米国電気電子学会(IEEE)やアメリカ物理学協会(AIP)でトップニュースとして取り上げられ、国内外から大きな反響があった。これらの研究成果に基づき、平成27年度は予想以上の成果が得られたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
二次元薄膜の電子状態について、スピンまで分解した精密な電子構造解析を行うために、現行の超高分解能3次元スピン分解光電子分光装置のターゲット散乱チャンバーを改造する。鉄の蒸着源、酸素導入機構、および超高真空排気系を改良し、高いシャーマン関数が長期的に得られる薄膜ターゲットの条件と、その際の低速電子回折レンズパラメータの最適値を絞り込む。ブリルアンゾーン全体を網羅した測定を行うために、試料先端部に二軸回転(仰角とアジマス角)の自由度を備えた多軸回転試料マニピュレータの設計・製作を行う。そのほかに、物質の表面だけでなく、ヘテロ界面電子状態の測定を目的として、He, Ar, Kr, Xeなどの各種希ガスの共鳴線を切り替えられる光源系を整備し、プローブ深さを変えたARPES測定により界面電子状態の評価を行う。 建設した装置を用いて、薄膜ハイブリッドの母材料となる、トポロジカル絶縁体、ラシュバ・強磁性金属、高温超伝導体、およびグラフェンの高品質薄膜を作成し、スピン分解ARPESにより、その基盤電子状態を決定する。さらに、それらの薄膜ハイブリッドを作成し、接合領域における電子構造を決定する。その際に、バンド計算を用いて、新奇量子現象の発現に適した薄膜ハイブリッド構造のデザインを行う。具体的には、超伝導グラフェンの超伝導機構の解明、重金属Bi薄膜を中心とした巨大なラシュバ分裂物質と2次元トポロジカル超薄膜の探索、FeSeを中心とする二元鉄系超伝導薄膜の超伝導転移温度の更なる向上、トポロジカル多重へテロ構造における量子サイズ効果による電子構造の制御と、新奇トポロジカル現象の探索、磁性トポロジカル絶縁体薄膜の作成と異常量子ホール相の研究、トポロジカル絶縁体と強磁性体の薄膜ハイブリッドによる強磁性ワイル半金属相の探索、などの研究を進めていく予定である。
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