研究課題/領域番号 |
15H02129
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岩崎 俊樹 東北大学, 理学研究科, 特任教授 (80302074)
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研究分担者 |
小林 ちあき 気象庁気象研究所, 気候研究部, 主任研究官 (20354459)
山崎 哲 国立研究開発法人海洋研究開発機構, アプリケーションラボ, 研究員 (20633887)
宮崎 和幸 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 招聘主任研究員 (30435838)
相木 秀則 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (60358752)
高谷 康太郎 京都産業大学, 理学部, 准教授 (60392966)
須賀 利雄 東北大学, 理学研究科, 教授 (70211977)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 気候変動 / 加重付等温位面平均 / 加重付等密度面平均 / 寒気流出・コールドサージ / 亜熱帯モード水 / 極端現象 / ENSO / 温暖化の極域増幅 |
研究実績の概要 |
等温位面上の質量加重付帯状平均子午面循環(Z-MIM)の変動に関し、2018年の事例について気象庁モデルの再現性と予測可能性を調べた。等温位面加重付時間平均系(T-MIM)に基づき平均子午面循環の三次元構造を明らかにした(Kanno et al., 2018)。T-MIMにおける波活動度フラックスの定式化を行い、論文を作成している。また、位相依存性のないエネルギー変換項およびエネルギーフラックスを定式化した。 冬半球積算の寒気質量と寒気容量について温暖化トレンドを調べた。半球積算寒気質量はしきい値の温位を下げるほどトレンドが大きくなり、極域の温暖化増幅現象の良い指標となることを明らかにした(Kanno et al., 2019)。年々変動は、ENSOに関係することを明らかにした(Abdillah et al., 2018)。太平洋域と大西洋域のブロッキングと北極域の寒気放出との間の関係について調査を進めた.寒気放出には、極東域・北米西岸・北半球大西洋中部で発生するブロッキング頻度と強い相関関係があることがわかった。総観的な観点では2016年1月に発生した記録破りの寒波について、寒気の起源と輸送過程を、特定温位をしきい値とする寒気質量解析を用いて調べた(Yamaguchi et al., 2019)。 海洋混合層の発達過程と海洋内部のモード水の構造との関係を数値実験により調べた。キャベリング(海水の密度の状態方程式の非線形性)の海洋モード水形成への関与、および、風応力が海洋混合層にエネルギー注入する過程を定式化した。2004年~2015年のArgoによる水温・塩分データを等密度面座標で解析を行い、北半球の亜熱帯モード水の等密度面上で塩分偏差の長期トレンドと十年規模変動を検出した。偏差の伝播速度は、大規模循環の速度の2~3倍と見積もられ、中規模以下の渦成分による輸送が示唆された。東部亜熱帯モード水、中央モード水の等密度面上でも塩分偏差の数年スケール変動と長期トレンドを検出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Z-MIMについて、2018年の事例では、熱帯域の平均子午面循環の平年偏差が予測可能であることが確認できた。一方、中緯度域の平均子午面循環は、季節変化は予測されるが、平年偏差の予測は難しいことが分かった。T-MIMでは、中高緯度において傾圧不安定波動によってボーラス速度(非定常フラックス速度)が、平均子午面循環に重要であることを明らかにした。エネルギー変換項およびエネルギーフラックスを観測データの解析に用いた結果、中高緯度大気長周期変動の重要な要素の一つであるテレコネクションパターンの生成/維持のメカニズム解明に向けて大きな成果を得た。 冬半球積算の寒気質量と寒気容量の過去の温暖化トレンドを再解析を用いて調べた。将来のトレンドをCMIP5を用いて調べている。ENSOはアリューシャン低気圧の消長を通じて太平洋上の寒気流出を支配し、年々変動を引き起こしている。ブロッキングの検出方法を多様化し、寒気流出とブロッキングの関係のメカニズム研究と予測可能性研究を行う。2016年1月に発生し寒波について、主要な寒気を2週間にわたりラグランジェ的に追跡した。また、再起確率を調べた結果、強い移流速度が記録破りの寒波の大きな要因であることを明らかにした。 前年度までに行った海洋の密度座標系における渦エネルギーの収支式の定式化についての論文化が進んでおり、この研究と海洋のエネルギー源である混合層過程との関係が見出されたことにより、総合的に力学的な解釈に適した体系に到達しようとしている。Argoフロートデータから、等密度面に沿って海洋内部に沈み込む水温・塩分偏差(等密度面上の塩分偏差で代表させる)の時空間変動を記述し、その大気循環場、とくに寒気流出の変動との関係までを考察する計画だった。塩分偏差の時空間変動が予想以上に多様であることが分かった。引続き大気循環場変動との関係の考察を行う。
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今後の研究の推進方策 |
等温位面上の2次元の質量加重付帯状平均(Z-MIM)の子午面循環の変動メカニズムとその予測可能性について、気候モデルを用いて調べる。等温位面上の質量加重付時間平均量(T-MIM)に基づく3次元大気大循環を解析する。特に鉛直流について、断熱項・非断熱項および定常項・非定常項をそれぞれ分離する定式化を行い、初期的な解析を実施する。北半球の大気微量成分分布について、中高緯度の大気輸送過程の定量的な記述を検討してきた。今年度は季節平均場に対する大規模循環の重要性について、等温位面上の質量加重平均量を活用して新たな物理的な解釈を与えることに取り組む。 T-MIMでは基本場エネルギーの時間発展方程式に現れるエネルギー変換項について位相依存性のない表現を導き、エネルギーサイクルの定式化を完成させる。さらに、等温位面上の質量加重付時間平均場における非定常波動の位相依存性のない活動度フラックスの定式化に取り組む。 特定温位をしきい値とする寒気流出解析では、地球温暖化の将来予測の解析結果を取りまとめる。顕著なブロッキング事例の形成・持続メカニズムと予測可能性について、ストームトラックと寒気流出との関係に注目し、大気大循環モデルと長期再解析データを用いて研究する。等温位面解析の総観規模現象やメソスケール現象解析への応用を目指し、顕著な東アジアの寒波や日本の南岸低気圧の解析を試みる。 海洋内部の波動によるエネルギー循環の全球分布を同定するために、エネルギーの入力源である海上風から海洋表層流へ仕事率を流線関数使ってノイズ除去するという新しい手法を開発しそれを応用した研究を行う。等密度面上で格子化した解析データを用いて、水温・塩分の時空間変動を記述し、等密度面に沿った海洋内部への熱・塩分偏差の沈み込み過程、およびその大気場変動、とくに寒気流出の変動との関係を考察する。
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