研究課題
内浦湾,広島湾,大阪湾の堆積物試料については,分析を行なった.下北沖のコアについても解析を行い,大平山元遺跡で発掘された世界最古の土器が誕生した環境を復元し,論文を発表した.土器の発明と発展は,考古学研究にとり重要である.中東では,農業開始後,数千年を経て土器が出現した.ヨーロッパでは,農業開始と土器が出現はほぼ同時期であった.日本を含めた極東では,土器の出現は農業開始に数千年先行した.日本の場合,縄文時代の開始は,基本的に縄文土器の出現とそれに伴う文化の誕生によってもたらされた.土器の発展は,気候変動やそれに伴う生態学的な変化により促されたようであるが,定量的な議論がされてこなかった.アルケノン水温と気温の高相関を利用した新方式を用いて行なった(誤差0.2℃程度).本州最北端の下北半島沖(MD01-2409地点)で,過去2万7千年間の復元された温度(気温,水温)は,最高水温が19.4℃(6,660年前),最低水温が8.7℃(推定気温は5.2℃,15,680年前)であった.この最寒冷期は,最終氷期最盛期でなくハインリッヒ事変に相当していた.しかも,中国の鍾乳洞の石筍記録より夏期アジアモンス-ンが弱体化していた時期であった.最寒期の温度を現在の水温(~15.7℃),気温(~16.7℃)と比べると約7~11℃低かった.世界で最古級の土器と石鏃は,ホモ・サピエンスが日本列島に居住して以来,日本列島の寒冷地域で,しかも縄文人が経験した中で最寒期に出現したことがわかった.夏期の気候は,現在の北海道東部の根室や納沙布岬の現在それより若干寒いことを示していた.食料は,豊富な魚介類に頼ることとなり,最初期の縄文人は,縄文土器を用いて,海洋や河川水の水産資源を調理し,「海鮮鍋」を楽しんでいた.この結果は,近年発表された,土器付着有機物の精密化学分析の結果と整合的である.
2: おおむね順調に進展している
噴火湾のコアについて50年の解像度でのアルケノン水温分析は予定どおり終了している.大阪湾の試料について,これまで分析したデータをプロットしたところ,国際誌に発表した広島湾の結果と整合的であった.この後,付加的な試料の分析を行い,国際誌に投稿する.下北沖のコアは,27000千年間の長期の環境復元のためのもので,人類との関係については当初,議論するのがむつかしかったが,世界最古級の土器の出現時の気候復元といったテーマで国際誌に論文を執筆した.
噴火湾のコアについて50年の解像度でのアルケノン水温分析は終了し,気温の推定を行ない,花粉情報との関連を解析している.今後,スペクトル解析を行なう,関連する環境指標の解析と人間活動への影響に関する論文を国際誌に投稿すべく論文執筆中で70%終了している.大阪湾のコアについて,アルケノン水温に基づく気温の復元に関して,より高時間解像度に対応するデータを提出する.特に,古墳時代の環境復元研究については,これまで解析がすすんでいなかったので,重点期間としてより高時間解像度で解析する.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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