研究課題/領域番号 |
15H02141
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山路 敦 京都大学, 理学研究科, 教授 (40212287)
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研究分担者 |
大坪 誠 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (70443174)
佐藤 活志 京都大学, 理学研究科, 助教 (70509942)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テクトニクス / 地殻変動 / 応力 |
研究実績の概要 |
【菱刈金鉱脈】 鹿児島県北部の菱刈鉱山は,今日も盛んに稼働している鉱山である.南九州の若い金鉱床形成において応力状態が重要だったことは指摘されていたが,どんな状態だったかは不明確だった.菱刈鉱山の約130万年前から50万年前までの間に形成された金鉱脈の方向データに,今回,平成28年の本研究で開発・公開した応力解析法を適用した.その結果,鉱脈形成時に正断層型応力と横ずれ断層型応力が働いていたことにが明らかになった. また,異なる深度の坑道から得たデータから鉱液の圧力勾配が推定され,深度に対してそれが,静水圧勾配とは異なる勾配を持つことが明らかになった.このことから,鉱脈群形成時の次のような動的過程が推定された.すなわち,鉱液からの鉱物の沈殿で岩盤の亀裂が閉塞し不透水層を形成するが,後続の鉱液の圧力により不透水層が破壊され,亀裂を生ずる.こうした過程が繰り返して,膨大な数の鉱脈が形成された.こうして,異なる深度の岩脈または鉱脈のデータから流体圧を推定する方法を開発した. 【北但層群の岩脈群】 中新世の前半に堆積した北但層群には,多数の岩脈や岩床が貫入している.それらから方向データを収集し,また,貫入年代を知るために放射年代測定を行った.その結果,従来は幅の広い岩脈とされていた貫入岩体が,ラコリスであることを明らかにした.また,ラコリス・岩床・岩脈が同じ時期に貫入したことがわかってきた. 岩脈や岩床の方向データを解析することにより,それらの貫入が正断層型応力のもとでおこったことが明らかになた. 【琉球弧南部の応力場変遷】 琉球弧南部の隆起珊瑚礁で小断層データを収集し,第四紀末の応力場変遷を検討した. 【方解石双晶の応力解析】 平成27年の本研究で開発した解析法を改良し,外房から得られたデータに適用した.双晶が直接的に表すのは応力ではなく歪みであるから,歪み解析についての検討も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
菱刈鉱山における鉱液の圧力推定は,応力場変遷の研究の副産物である.しかしそれは稼働中の鉱山だからこそできた研究である.我が国でそれができる鉱山は,今やほとんどないが,菱刈鉱山に入坑する貴重な機会を利用して,地質構造からわずか百万年前にできた鉱脈から流体の圧力を水平する方法を,世界に先駆けて確立することができた.地殻中の流体移動に応力が重要な役割を果たすはずであるから,廃棄物の地層処分を考える上で地殻応力の理解が欠かせないという発想から本研究を始めたわけだが,菱刈鉱山の研究で,応力と流体移動とが結びついたことになる.また,南九州では鹿児島湾のリフティングが約百万年前にはじまり,そこに変形が集中したことによって周囲の応力が緩和されたことが,この研究で示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
琉球弧南部において小断層データを引き続き収集し,数万~数十万年前の応力場変遷を解明する.また,北但層群の貫入岩の研究を継続し,同時代にできた岩脈と岩床から応力状態を推定する方法を検討する.さらにまた,露頭で採取した方解石で双晶のデータを収集し,開発した方法の有効性を検証する.また,採取地点の周囲の小断層の応力解析結果と比較検討する.
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備考 |
GArcmBには英語のマニュアルを付け,どのコンピュータのOSでも利用できるかたちで公開した.このソフトウェアは地質データのみならず,三次元方向統計データ解析に利用できるようにもしてあるので,他分野での利用も期待される.
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